「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

近聞遠見:2女性の「言葉」が重たい

MSN-Mainichi INTERACTIVE 事件


 拉致問題をめぐり、二人の女性の言葉が非常に重たい。

 まず、被害者、横田めぐみの母親早紀江。拉致から1年くらい、中学生のころのめぐみの写真を掲げながら、

 「この写真が一番悲しかったです。泣きながら苦しみながら連れていかれ、それでも必死につらさをこらえようとしている表情がうかがえます。見ているとたまらない気持ちになりました。かわいそうでなりません」

 と言い、聡明(そうめい)な母親は涙ぐんだ。日本人のだれもが涙して聞いた。この非道は絶対に許せない。

 もう一人、拉致問題の内情を熟知しているはずの中山恭子前内閣官房参与。今回の日朝実務者協議で北朝鮮側が提示した資料について、こう言い切った。

 「偽りに偽りを重ねてきたという印象で、茶番です。真実がどれだけ含まれているのか。(安否不明者10人のうち)いまも相当数の人が生存していると確信しています。拉致被害者家族全員と政府が『解決した』と納得するまで、国交正常化はすべきでない」(17日、松山市内の講演で)

 日本人の多数が、そうに違いない、と思った。二人の言葉に対する反応を重ね合わせると、拉致という国家的蛮行を毅然(きぜん)として、妥協なく追及すべきだという<世論>が鮮明になる。

 ところが、この世論と政府の対応にはかなりの開きがある。小泉純一郎首相と町村信孝外相は、日朝実務者協議について

 「努力のあとがある」

 と北朝鮮側を評価し、小泉はさらに、

 「将来の国交正常化に向けた一つの段階とみている」

 と述べた。食糧支援の継続も明言している。

 <一つの段階>とは、正常化への道筋の一歩前進を意味しており、茶番劇の見方とはまるきり違う。なぜこれほどのギャップが生まれるのか。

 小泉ら政府の対北朝鮮政策の基本には、口に出しては言わないが、北朝鮮の核・ミサイルに対する脅威がある。第1回小泉訪朝(02年9月17日)のあと、下交渉をした外務省の田中均アジア大洋州局長(現外務審議官)が、

 「毎朝目が覚めると、『きょうも無事に朝を迎えることができた』とほっとします」

 ともらすのを聞いた。金正日(キムジョンイル)総書記がいつどんな事情で、ミサイル発射の指令を出すか、だれにもわからない、という恐怖である。万一そうなれば、日本には防御能力がない。

 米国の核抑止力に頼り、北朝鮮側を確実に封じ込められるかと言えば、必ずしも保証のかぎりではなく、脅威は現実に存在する、と考えているようだ。

 そうした脅威論に立てば、日本の安全を守る方策は、精力的に国交正常化交渉を進めるしかなく、それが国益にそうとみる。

 拉致問題との関連で言えば、<過去の犯罪>を解決することも重要だが、<未来の脅威>に対処するほうがもっと重要、というのが本音なのだろう。小泉の評価発言の背景である。

 従って、<対話と圧力>という対北朝鮮外交の基本方針は、明らかに対話に比重がかかっている。外務省高官は、

 「拉致のこれ以上の追及は正常化交渉のなかでやるしかない」

 と言う。拉致問題の完全決着を正常化の前提にするのではなく、<中締め>のニュアンスなのだ。

 しかし、世論と与党の一部は圧力派、つまり経済制裁やるべしに傾いている。この溝の深まりは政治問題化していく。

 目の前の怒りと国益論の衝突をどう調整するか。似たようなジレンマはイラク・日中にも潜在している。

 小泉首相が本音を本気で語るしか、隘路(あいろ)を抜ける方法はない。(敬称略)【岩見隆夫】

毎日新聞 2004年11月20日 0時12分
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by miya-neta | 2004-11-20 09:27 | 政 治