「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

今週の本棚:『科学技術とジェンダー』=ヴァイクマン他・著

MSN-Mainichi INTERACTIVE 話題


今週の本棚:村上陽一郎・評 『科学技術とジェンダー』
  ヘルガ・リュープザーメン=ヴァイクマン他・著
  (明石書店・1470円)

 ◇女性の企業内研究促すEUの試み

 ジェンダー問題はさまざまな広がりを持つ。科学・技術との関連でも、近代の科学・技術の性格とマスキュリニズム(男性特権主義)との関連を指摘するような論陣もあれば、研究・開発の現場における男性支配の歴史にメスを入れようとする議論もある。あるいは、男性が多数を占める研究において、無視されたり、あるいは軽視されてきた研究分野や、開発領域に、女性の進出による補完的な結果を期待するような立論もある。

 本書は、そうしたこれまでの科学・技術とジェンダーの議論の範囲を、さらに広げる役割を果たすものと考えられる。本文一〇〇ページに足りない小さな書物であるが、インパクトは大きそうだ。

 ヨーロッパが、EUという組織化を通じて、何事によらず、一つの統一的な観点から、判断し、提案し、行動するという傾向が強まっている。例えば、スウェーデン、そして最近の数年間はフィンランドという傑出した代表例を持ちながら、EU十五カ国平均では(GDPの)二パーセントに達しない研究・開発費を、二〇一〇年には三パーセントに引き上げる、というような非常に具体的な目標を掲げて、諸国が努力を重ねよう、というのもその一つである。そして、その目標の達成に絡むものとして、特に民間の研究・開発投資を増やそう、という副次的目標が掲げられている。この点は、日本が、この指標では世界で三位(一位、二位は前述のスウェーデン、フィンランドである)にありながら、公的資金と民間資金の割合が極端に民間に傾いて経過してきたことに強い反省があるのと、興味深い対照をなしている。

 本書は、こうした問題意識に、研究・開発に携わる女性の割合を革命的に変えよう、という論点を噛み合わせた論考が並んでいる。著者たちは、ほとんどすべて、企業に勤務する人々(編者は、大学で教えながら、バイエル社の副社長の地位にある)によって占められているのも極めて斬新な印象を与える。

 大企業にせよ、起業家によるベンチャーにせよ、現代は、いわゆる「知識を基盤にした経済」態勢のなかにある。そうした状況において、そこに女性の参画が少ないのは、むしろ大きな損失として捉えるべきではないか。当然のことながら、消費者と呼ばれる層の半分は女性である。それだけでも、現在のような企業内の研究・開発の相当部分が男性によってのみ担われている事態は変則的である。

 このような観点から、各国における女性の研究・開発従事者の現況の分析、企業における取り組みの実例などが提示された後、最終章で、問題の解決、事態の改善のために、企業は何ができるか、政府は何ができるか、また女性の起業家を増やすためには、企業、政府、大学に何ができるか、という点で具体的な提案が掲げられる。その一つ一つをとれば、特に目新しいものは少ないかもしれないが、目的、プラン、行動が非常に明確に捉えられた上で、実体験に基づく説得力がある議論が展開されると同時に、EUとしての一体感がもたらす一種の迫力が感じられる。

 ふんだんに盛られている統計的数値も、男女共同参画社会を目指す日本社会の問題を考えるために参考になるだろうし、これまでにあまり見当たらなかった、ビジネスという視点からのこうした問題提起はわれわれに強い刺激となるに違いない。(小川眞里子、飯島亜衣・訳)

毎日新聞 2004年11月28日 東京朝刊
[PR]
by miya-neta | 2004-11-28 15:24 | 女 性