都心ビル地下金庫跡で「野菜工場」 転職会社が就農支援
2005年 01月 09日
東京・大手町のオフィス街のど真ん中、かつて大手銀行の金庫として使われていたビル地下で「コメ・野菜工場」が2月にも稼働する。コンピューター制御による人工照明や室温調整などのハイテクを駆使し、無農薬のトマトやレタスを生産する。転職支援会社が、職についていない若者やリストラされて失業中の中高年の就農支援のために農業研修の場として、あえて足の便のいい都心部に建設する。今春の初収穫の結果や研修希望者数によっては、他の都心ビルでさらに大規模な野菜工場を造り、本格的な出荷をめざす。
運営に乗り出すのは、ソニーやキヤノンなど約30社が出資してつくった転職支援会社の「関東雇用創出機構」と人材派遣大手のパソナ。両社は大手企業の熟練技能者を中小企業に紹介する事業を進めている。農業も今後は雇用吸収の余地が広がるとみて、高付加価値の野菜を生産する工場運営と就農支援の実験に乗り出す。
野菜工場では発光ダイオード(LED)など人工的な照明だけを使って野菜をつくる。植物工場を専門とする東海大学開発工学部の高辻正基教授が技術指導する。完全制御型の植物工場は全国で現在15カ所あるが、ほとんどは郊外に立地しており、都心ビルに設けられるのは初めてという。
場所は大企業が集まる大手町にある大手町野村ビル(地上27階・地下5階建て)。破綻(はたん)した東京生命が上層階、実質国有化されたりそな銀行(旧大和銀行)が下層階を使っていたが、いずれも撤退し、今は賃貸ビルとして複数の企業が入居している。パソナの本社が入居したのを機に、金庫室だった地下2階も借りた。
約1千平方メートルにトマトやサラダ菜、レタス、イチゴなどの野菜・果物、花やハーブ類などのプラントを作る。棚田も設けコメも栽培する計画だ。
コンピューターで室温を調節し、培養液や二酸化炭素を吹きつけることで、農薬を使わないで栽培をする。基本的に土をあまり使わない水耕栽培が中心。
春には野菜の収穫が始まる見通しで、当面はビル内の食堂で使う。成功すれば、都内の他のビルにも広げて大量生産の態勢を整え、都心の飲食店などにも出荷する。
当初、栽培を担当するのは就農を目指す元フリーターの若者ら数人。同機構が秋田県大潟村に派遣し、農業の実地研修を積んできた。大潟村での就農研修に送った中高年サラリーマンやフリーターは03年から総勢約100人にのぼる。今後、農地での実習ができなくなる冬にはこの野菜工場で栽培技術の研修をする。
午前10時から午後9時ごろまで勤め帰りのサラリーマンやOLにも開放し、ハイテク栽培を体験してもらう。就農希望者には改めて本格的な研修を受けさせるという。
(2005/01/09 06:14)
大手町野村ビル=東京・大手町で、本社ヘリから
野菜や花を育てるための工事が進む大手町野村ビルの地下2階。
小さな棚田もある=8日、東京・大手町で