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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

デジタル放送の課題:ライブドアに勝算はあるのか

MSN-Mainichi INTERACTIVE カバーストーリー


 ライブドアがニッポン放送の株式を取得したことにより、放送業界との新たな提携の形を模索する姿を見せられることになった。とは言え、いかに技術進歩のスピードが速まろうと、ビジネスの世界にもマナーというものがある。その点が見落とされているように感じてならない。【西  正】

■■本当は何をしたいのか

 フジテレビとニッポン放送の親子関係が不自然であることは以前から指摘されていた通りであり、それを是正することを目的としてTOB(株式公開買い付け)が進められていたわけである。TOBという手段を選んだということは、周知の事実として、親子関係の是正を図っていたということである。そのニッポン放送の株式を35%取得したとして、ライブドアが名乗りを挙げたことは、フジテレビ側にとっては突然の知らせであり、その真意を推し測る限りあまりウエルカムなことではなかったと思われる。

 民放キー局の中でもフジテレビの業績が好調であることは、衆人の認めるところである。今後の将来性も非常に期待し得ることもよく分かる。それだけに、新たに放送事業に関与するのであれば、パートナーとしてフジテレビを選択することは間違えているとは言えない。また、フジテレビからニッポン放送へのTOBが完了する前に、ニッポン放送の株式を取得することがフジテレビとの関係を強める早道であることも明らかだ。

 そうであるのなら、そうであると言えばよいのである。しかしながら、ニッポン放送の株式の35%を取得したと、いきなりの発表をしたライブドアの堀江貴文社長の会見内容からは、その目的を察することは難しかった。「ラジオとネットの融合」と言われても、すぐにはピンと来ないし、簡単には理解し得るものではなかった。放送局のホームページをより魅力的なものにしたいという発言も、そのために投じた資金量との兼合いからすれば、理解に苦しむものであったと言わざるを得ない。フジテレビの事業に関与したいのであれば、名前を言い間違えたかのように伝えるのではなく、堂々とそう言えばよかったのではなかろうか。

 若くしてIT業界で成功した手腕は評価されて然るべきかもしれないが、新たにパートナーを組もうとか、お互いのシナジーを形成しようというのなら、あのような突然の挨拶から入ることが相手方から無礼であると受け止められるのは当然のことである。

 外資系の金融機関から多額の資金を調達したということで、その返済についても念頭に置いておかねばならないことから、「命がけ」であるといった表現が使われた会見もあった。「命がけ」も自分の命だけなら結構だが、ライブドアが公開企業である以上、マーケットで多くの株主からの投資を得ていることを忘れてしまわれては困る。株主の了解については、どのように考えていたのであろうか。簡単に「命」をかけるなどと言われたら、株主にとっては迷惑この上ない話である。

 ニッポン放送の株式を取得した理由として、シナジーという言葉を連発していた。この場合のシナジーとは何を指すのか。「命がけ」である割には、非常に不明瞭な印象しか受けなかったのが残念である。

 「放送と通信の融合」という言葉が一人歩きして久しいが、既存の多くの事業者がシナジーの発揮の糸口を見つけるのに苦労している。新たな事業を生業とする若き経営者には突破口が見えたということなのだろうか。それには大いに期待したいところだが、今のところ具体的なイメージは見出せずにいるように思われる。

 シナジーというのなら、自分の事業についてだけでなく、相手方の事業についても十分に学習しておく必要があるのは当然のことだ。ニッポン放送もフジテレビも放送局である。ラジオにはラジオの、テレビにはテレビの、それぞれの作品がある。実際にどのような番組にシナジーのヒントを得たのだろうか。ご自分がバラエティー番組に出演しているのは分かるが、シナジーを語るのであれば、経営サイドからの視点が欠かせない。番組出演とは何の関係もないことである。

 今回の参入のために800億円もの資金を調達したのであれば、それが生み出す果実についてのプランが無いということでは済まされない。結果として高騰した株式を売りぬくためではないと言う。それなら長期保有の目的を明らかにすべきである。それが企業秘密であるというのなら、軽々にシナジーなどと言うべきではなかろう。

■■米国型のメディアビジネスとの違い

 放送局に対して「資本の論理」で参画を申し出てはいけないという法はない。マスメディア集中排除規制も、マスメディア同士の問題であるから、外資でない限り株式の保有制限も無い。

 また、米国のメディア市場の動向を見る限りでは、放送事業についても他の一般事業と同様に、M&Aは活発に行われている。放送事業だからといって、何の特別扱いも無い。日本と異なる点として、放送事業とは別の存在として、多くの作品を世に送り出すハリウッドのメジャースタジオ各社がある。こちらについても、M&Aが行われることは決して珍しいことではない。

 ただ、日本的なビジネス慣行が古めかしいとか、そうでないとかという議論とは別問題として、フジテレビがTOBを行っていることを知っていながら、それを阻止するような資本の使い方をすることは、妙に中途半端なM&Aであり、そうであるが故に米国型のモデルとも違うように思われる。

 米国のメディアビジネスとの大きな違いの一つは、日本の場合には地上波放送の比重が、他の放送事業と比べて非常に大きいということである。NHKはもちろんのこと、民放としても法の縛りがあるか否かとは別次元の問題として、ユニバーサルサービスを志向している。その理由として、電波が公共の資源であるとの考え方があり、地上波放送はライフラインの一翼を担う公共性の高い事業として認識されている。

 米国のようにメディアが多様化している状況とは異なるわけであり、日本の地上波放送は単なる営利目的事業ではない。それだけに、資本の論理で軽々に参加してくることは不適切であり、参加の目的が単なるエンターテイメント・ビジネスへの関与ということならば、放送業界から受け入れられにくいこともやむを得ないのではなかろうか。公共性の高い事業であることについて、どの程度まで認識していたのかが疑問視されるところである。

 もう一つの大きな違いは、間接的な資本参加により、フジテレビの放送している作品をIP系で使おうとしても、フジテレビだけでは決められないという事情がある。ネット事業に優良なコンテンツが不足していることは確かである。フジテレビに限らず放送局の持つ作品を使いたいという気持ちもよく分かる。

 しかし、フジテレビへの何らかの経営関与が果たせたとしても、それだけでフジテレビの作品をIPベースで使うことは出来ない。そこが米国との違いである。日本の作品の場合は、放送利用以外の部分については別途著作権処理が必要になる。著作権者および著作隣接権者の了解を得ないことには、通信系などで利用することは許されない。米国の場合には、ゼネラルプロデューサー(GP)制度が定着しており、GPが著作権処理を一手に行うことが出来るようになっている。そのため、GPとの話し合いさえ付けば、その後の多メディア展開は非常にスムーズに運ぶ形になっている。

 同じく放送事業、映像作品事業といっても、日米ではその事情が大きく異なるため、日本の放送事業への関与を望むのなら、いきなり米国型の資本の論理に物を言わせても、その目的を果たすことは出来ないのである。

 ソフトバンク系のBBTVや、KDDIの光プラスTV、ジュピター系のオンラインティーヴィといった大手のIP放送事業者が既にビジネス展開を始めており、地上波系の作品を取り扱うことを熱望しているが、なかなか簡単な話でないことは十分に実感しているはずである。それだけに、ライブドアが800億円もの資金を調達したのはいいが、それを返済するためのキャッシュフローを生み出すために、どのようなビジネスモデルを描いているのかが見えてこない。

 ライブドアの時価総額は別として、現在の事業規模を考えると、800億円もの資金調達はあまりに過大に見える。ニッポン放送とのアライアンスだけでは、どのようなシナジーを実現したところで、調達額に見合った規模の拡大は想像できない。

 フジテレビにとってニッポン放送というラジオ局が、グループ力を生かしていくために必要不可欠な存在であるとも思えない。極論を言ってしまえば、ニッポン放送に独立して事業を行われることになっても、決して困らないとすら言える。

 ライブドアが本当に欲しかったものは、フジテレビを中核とするフジサンケイグループとの協調体制を得ることであったことは間違いあるまい。しかし、日本の放送業界にとって、資本の論理で突然に参加してくるようなスタイルは非常に不慣れな形となっている。業界体質が古いなどと言ってみたところで何も始まらない。「それも知らずに参入するつもりだったのですか?」と問い返されてしまうだけであろう。

 「放送と通信の融合」は言葉だけが一人歩きしていると述べたが、そうは言っても技術革新の成果として少しずつ実現していくであろうことも予想される。NHKに続いて、民放各社も権利処理の行えた作品については、VODコンテンツとして提供していく予定であると聞いている。

 あまりに日本的と言えば、日本的な話かもしれないが、やはり一緒にビジネスを行っていこうと提携を持ちかけるのであれば、まずは名刺交換をして、お互いの顔となりを理解してから、「それでは」と言って始まるものなのではなかろうか。いきなり資本を注入してくるような手法が好まれないことは、あまりにも明らかである。むしろ、そういった手法を用いて参入していくこと自体が、結果として、放送と通信の融合を妨げることにしかならないとさえ言えるのではなかろうか。

ライブドア
http://www.livedoor.com/

ニッポン放送
http://www.jolf.co.jp/

 2005年2月16日
by miya-neta | 2005-02-28 07:44 | メディア