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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

特集WORLD:ライブドア騒動 三つの視点

MSN-Mainichi INTERACTIVE 話題


 ニッポン放送の経営権を巡り、2カ月以上にわたって争ったライブドアとフジテレビジョン。結局、資本・業務提携することで「和解」したが、この間、多方面に賛否を巻き起こした。ライブドア騒動が残したものとは何だったのか。三つの視点で考えてみる。【五十嵐英美、大森泰貴、小松やしほ】

 ◆放送とネットの融合

 ◇公平で納得いくルール作れ--慶応大商学部教授・井手秀樹氏

 ブロードバンドでのインターネット通信が当たり前になり、映像や音声を高い品質で供給できるようになった。しかし具体的にどうコンテンツを配信するかは議論も進まず、法制度も未整備で、展望が見えない。今回の争奪戦では「放送とネットの融合」というフレーズが繰り返され、問題提起として意味があった。しかし提携の中身は明確にならず、検討が先送りになったこと自体、越えるべきハードルがまだ多数あることを示している。

 具体的には著作権の問題だ。テレビ番組などは放送局が、原作者や俳優らと個別に契約を結び、例えば2年間で本放送と再放送1回を行うなどと取り決める。ネット配信には多数の権利者と別途契約する必要があり、非常に煩雑だ。ネット上でのテレビドラマの有料配信についてはNHK、民放連と日本文芸家協会などがドラマ1作品につき原作者らに2・8%支払うなどで暫定合意したが、アニメや映画についてはこうした基準すらなく課題は多い。

 著作権問題を業界横断的に処理する統一機構を作るなどの案が考えられるが、法整備が必要だ。放送は放送法、通信は電気通信事業法などの規制を受けるが、ソフトをどう流通させるのかなど両者をつなぐルールが未確立だ。

 米国では制作者が番組を供給し、大手放送局やCATVなどが入札して放送権を買う「シンジケート市場」が成立し、一つの番組を複数のルートで流すことが出来る。ネット事業者が参加することも不可能ではない。NHKや民放など優良なコンテンツを持つ事業者にとっても、番組を流通させるルートが広がるのは望ましいはずだ。公平で誰もが納得できるルール作りを急ぐべきだ。

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 ◇いで・ひでき 神戸学院大教授を経て現職。著書に「規制と競争のネットワーク産業」(勁草書房)。

 ◆株式の持ち合い強化

 ◇企業は配当を高める以外ない--経済評論家・奥村宏氏

 取引のある企業同士が互いに株を持ち合う株式の持ち合いは、日本独特の習慣だ。60年代に外資の乗っ取り防止を目的に広まったが、相互持ち合いによって高株価は維持され、やがてバブルをもたらした。しかしバブル経済は崩壊。企業と銀行は大きな含み損を抱えることになった。

 89年に始まった日米構造協議で日本企業の閉鎖性が指摘され、バブル崩壊後解消が進んだが、今回の買収劇を受け、敵対的買収に備え、再び持ち合いを強化する動きが出てきた。石油大手2社が相互持ち合いを決め、鉄鋼3社は持ち合い比率を引き上げるという。

 いかにも頭の古い経営者のやることだ。持ち合いが復活するようなことになれば、海外の批判を浴びるのは必至。米国との経済摩擦も再燃する。資本取引は自由化されているのだから、流れは止められない。結局は持ち合いも部分的な動きにとどまると思う。

 問題は日本の企業の多くは株式会社の原則が分かっていないことだ。経営者が安定株主工作をすることは経営者が株主を決めることであり、株主が経営者を決めるという原則に反する。資金調達方法など堀江貴文氏の経営戦略は危なっかしく、決して評価しないが、株式市場において株の売買は自由。上場しているということはいつ乗っ取られてもしかたがないということだ。企業は業績を良くし、株価を上げ、配当を高くする努力をするしかない。経営者の意識改革が問われている。

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 ◇おくむら・ひろし 前中央大商学部教授。著書に「大企業解体」(ダイヤモンド社)など多数。

 ◆放送ジャーナリズム

 ◇基本に返り天に恥じぬ番組を--作家・麻生千晶氏

 今回、いかに日本のテレビが欧米と比べ内向きに偏っているかということを感じた。日本のテレビジャーナリズムは大衆迎合の最たるものだ。テレビの歴史は50年ちょっと。人間で言えば成熟を迎える年だが、テレビは成熟を迎えないまま老化している。その時々のはやりものや目立つものばかり追いかけている。なぜかと言えば、視聴率が取れるからだ。要するに金。金もうけに走りすぎている。だから、ホリエモンに振り回されるのだ。

 この約70日間、民放だけでなくNHKまでが堀江社長の顔ばかり追いかけた。たかが一企業の買収劇。世界のすう勢から言えば、取るに足らないことだ。もっと報道すべき問題がたくさんある。至る所で紛争を抱えている世界の現状、エネルギー問題、環境問題、今なら中国の反日デモや郵政民営化などをもっと分析して伝えるべきだ。そういう価値判断が一線の記者になくなっているのではないか。テレビは影響力こそ巨大になっているが、新聞に比べれば二流のメディア。さらに三流になるようなことをやることはない。

 テレビ局は免許企業だ。誰彼なしに免許は渡されるものではない。民放も貴重な公共の電波をお預かりしているのである。そういう誇りを持って、大所高所から最重要なものを報道する義務を負う、ジャーナリズムの基本に立ち返るべきだ。ジャーナリズムはそこで生きている人間の心で運営されている。金ではない。

 バラエティーなど娯楽もあっていい。ダメなものは自然淘汰(とうた)される。視聴者はそんなにばかではない。これからはメディアリテラシー(報道等に対する読解力)を持つ視聴者も育たなければいけないし、テレビ局もそれに応えなければいけない。そうしないと今後も、経営面ばかりでなく、心まで土足で踏みにじられることになるだろう。天に恥じない番組を作りなさいということだ。

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 ◇あそう・ちあき 東大仏文科卒。「TVnavi」(扶桑社)などにコラムを連載中。

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毎日新聞 2005年4月20日 東京夕刊
by miya-neta | 2005-04-20 09:49 | メディア