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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

離婚と親殺しの接点は 父かばう母愛憎逆転?

東京新聞


 友人に数十万円で母親の殺害を持ちかけていた北海道稚内市の殺人事件。逮捕された高校一年の長男(16)と友人の少年(15)は、共に両親が離婚し母親と暮らしていた。長男は動機について「離婚に不満があり、父親も殺したかった」と供述しているという。少年二人の心の闇はどこから生まれたのか。“離婚と親殺し”の接点を追った。 (橋本誠、中里宏)

 日本最北端・宗谷岬から約三十キロ。人口約四万人の稚内市の中心部に、母子が住んでいた二階建ての家はある。フェリーや漁船が見える海岸線から約百メートルの住宅街。年間を通して風が強く、背後の山では発電所の風車が回っている。

 長男は神奈川県で暮らしていたが、四年前に両親が離婚、中学校に入学するころ、母親の実家がある稚内市に移り住んだ。近所の主婦(73)は「中学生のころは、目の前の駐車場でほかの留守家族の子とボールをけったりして遊んでいた。お母さんは自転車で病院に通っていました」と振り返る。

 近くに住む男性(79)は「十五、六歳はデリケートな年代だが、そんな子には見えなかった。柔道部員で活発な子でした」。ただ、長男は学校、母親は仕事で昼間は誰もいないため「さびしそうな家庭。近所付き合いも少なかった」と明かす。

 この主婦は「お母さんは一生懸命やっていた。親が稚内の人だから、私たちも安心していた」と話すが、「三年ぐらいではまだ(どんな人か)分からない」という住民もおり、地域に溶け込む努力を続けていたようだ。別の女性(54)は「お母さんはおとなしくて、口数が少なかった」と印象を話した。

 二人が通っていた中学校の校長(60)は「(長男は)バスケット部に三年間所属し合唱コンクールでもがんばっていた。明るい印象で、さみしそうな様子は感じなかった。本人も親御さんも人間関係を広げていきたいと思っていたところでは」とショックを隠せない。

■中学の卒業文集『おやじ超えたい』

 中学の卒業文集は「僕は将来、親父(おやじ)と同じ海上自衛隊に入りたいです。(略)高校受験を頑張って何としても絶対に受かって、よい大学に入って、絶対に親父を超えてやろうと思ってます。(略)必ず自分の周りには自分を支えてくれている人たちが必ずいるから、何があってもめげないで頑張っていきましょう」と前向きな言葉であふれている。

 実は、長男は最近家出し、父親のいる神奈川県に行っていた。しかし、その後は稚内に戻っていたという。

 長男が通っていた高校の教頭(51)は「土曜日の数学検定にも出てきていたし、資格試験にも積極的だった。欠席も遅刻もまったくなかった。動機が分かればこんなことは起きません」と困惑する。両親の離婚についても相談は受けなかったという。

 一方、共犯の少年も両親が数年前に離婚。長男の家の二キロほど北で父親と暮らしていたが、父親がこの冬に急死し、市内の母親の家に引き取られた。「(長男にとって)友達の一人。おどけたり、ひょうきんなところがあった」と中学校の校長は話す。

 この少年の祖母(73)はうなだれこうつぶやいた。

 「孫は以前、新聞配達もしていて友だちと自転車で夜まで遊ぶこともあった。両親が離婚した後も、父親が魚釣りに連れて行ったりして、そんなにさびしそうではなかったのに…」

■子の不遇感見つめよ

 昨年一年間に少年が父母を殺害したり未遂に終わった事件は十七件に上り、前年の十件から急増した。

 今年六月には、奈良県の高校一年生男子が自宅に放火し、父親が再婚した母親と再婚後に生まれた弟と妹を殺害したとして逮捕された。

 厚生労働省の人口動態統計によると昨年の離婚件数は約二十七万四千七百組にも上り、離婚と「親殺し」を単純に結びつけることはできないが、「虐待と離婚の心的外傷」(朱鷺書房)の著書がある棚瀬一代・神戸親和女子大教授(臨床心理学)は「少年の親殺しで離婚家庭のケースが続いている」とした上で「両親がそろっておらず、子どもに対する『守り』が薄いところで問題が起きやすい」と分析する。

■『事件と短絡的結びつけ危険』

 一方、「いまどき中学生白書」の著書がある元女子少年院法務教官の魚住絹代氏は「離婚と事件を結びつけるのは危険。大事なのは、子どもが離婚前と後でどんな不遇感を持っていたのか、そこまで追いつめられる環境があったのかということに注目すること。親自身が家庭や離婚、生き方をどうとらえているかも大きい」と指摘する。

 “親殺し”が続くことについては「マスコミ報道で事件を知り、境遇や背景が自分と似ていると共感できる場合、『自分にもできるのでは』という短絡的な考えを持つことはあるだろう」とメディアの影響を挙げる。

■「抑圧か攻撃か二分法的発想」

 さらに、最近の子どもの傾向について「親に反発して乗り越えていくのが思春期。最近の子どもたちはそれだけのエネルギーがなかったり、反抗の手段が思いつかずにがまんするしかない状況にいて不満を強めていると感じる。“抑圧”か“攻撃”かという二分法的な発想はゲームやインターネットなどの影響も感じられる」と強調する。

 稚内市の少年は調べに対し、父親を殺害する計画についてもほのめかしながら「離婚した父への不満を漏らすと、母がいつも父親をかばったので憎くなった」と供述しているという。

 離婚した父親への憎悪が母親に向かうということはあるのか。前出の棚瀬教授は「例えば父親の母親に対するドメスティックバイオレンス(DV)があった場合、子どもは大切なお母さんがひどいことをされてかばってやりたいと思う。しかし、母親は父親と複雑な愛憎関係にあってDVが続くケースが多い。子どもが思春期以降になると、暴力を受けながらも父親をかばう母親に対して軽蔑(けいべつ)・侮蔑(ぶべつ)の念が生まれ、母親を父親と同一視して攻撃性が向かうことがある」と複雑な思春期の感情を解説する。

 稚内市の事件では少年が数十万円の報酬で中学時代の同級生に母親殺害を依頼した点が注目されている。

 犯罪心理学者の福島章・上智大名誉教授は「少年による親殺しは急増したというより、以前からある」として、一九八八年、東京都目黒区で起きた中学二年男子による両親、祖母殺害事件を挙げる。

 この事件で中二男子は同級生に「きょうやるぞ。来て手伝え」と電話で依頼。同級生は本当に事件を起こすとは思わず、現場から逃げていた。

 「少年の心理からすると、親に反抗する半面、半分以上は親に依存している。親を殺そうとしても自信が持てず心細いので友人を頼りにする」と友人に親殺しを依頼する心理を分析。稚内市の少年の友人については「母子家庭同士の友情があったかもしれない」と推測する。

 魚住氏は、離婚が一時間に約三十組に上る風潮をとらえ、こう警鐘を鳴らす。

 「親の都合で子どもを巻き込んだり、夫婦関係をこじらせて子どもに大きな負担や不安、傷を与えてしまうことが多い。子どもにとって安心できる環境を第一に、親としてのかかわりを持ちながら育てていく発想が大事なんです」

<デスクメモ> 「しろがねも くがねも玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも」と万葉の世に詠まれたように、子どもへの愛は無上のものだ。それがどう変わるとここまでの悲劇が起きるのか。社会のひずみが行き着く先が親子関係なのか。北端の事件は、今、ひずみが日本列島を覆っていることを物語っている。 (蒲)
by miya-neta | 2006-08-31 08:50 | 社 会