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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

第34回イジメ被害の後遺症 精神科医・斎藤学

MSN-Mainichi INTERACTIVE こころの世紀


 最近またイジメによる自殺が話題になっている。福岡県の中学生の自殺が報道されてから2週間ほどたつが、今朝の朝刊各紙にもこれに絡んだ記事があって、いつもより報道側の熱意が続くようだ。前年の担任教師による「からかい」が発端になったらしいというのが注目を浴びている原因なのだろう。

 それで思い出すのは、もう10年以上も前に相談を受けたシンナー依存の少女のこと。彼女の場合はおとなしくてグズで太っていたことが原因で小学校の担任からずっとイジメられ続け、5年生の1年間は「健康学園」なるところに追い払われていたそうだ。中学へ進んでも教師間の申し送りでもあるのか「問題児」として扱われているうちに、数回の盗難事件が起こり、そのつど担任から「あんたが犯人でしょ」と名指されて、家で泣いていたと母親が言っていた。「それならホントに非行少女になってやる」と上級生の非行グループに入ったのが良かった。万引き、シンナー吸引、売春とひととおりこなしているうちに、もっと反社会的な社会の人々との関係ができて、お定まりのように覚醒剤の乱用が始まった。しかしそのおかげで、警察の関心の的になり、鑑別所だの少年院だの、果ては精神科の医師だのという、教師とは別の大人たちと出会うようになって彼女は今、何とか生き残れている。

 今度死んでしまった子はホントに優しい良い子だったようで、そうなると救いがない。中学生ともなると見栄もあるから、学校でいじめられているなどと親に(特に親には)言えないし、こんなふうに学校へ行くのが当たり前の世の中で、学校にあわないとなると子どもたちは行き場をなくしてしまう。まるで北朝鮮で独裁反対運動をして捕まった人のように暮している「良い子」たちは多かろう。

 この種の報道のたびに思うのだが、子どもたちはどうしてあんなに熱心に学校へ行くのだろう。イジメもひどいものになると奴隷扱いの果てにクラスメート全員の前で性自慰を強いられるというようなことがあり、こんな経験をしては「魂」が死んでしまって、「それから」を自分らしく生きられなくなる。私が出会えるのは彼らの中で「悪人」や「病人」になれた者たちだけだが、どうせ出会うなら早い方がいい。というのも、かなりの年になった引きこもりニイサンやうつ病オバサンからも学校時代のイジメられ体験を聞かされることが多いからだ。

 現にだいぶ以前、私のクリニックに来ていた人々を調べた時には4人に1人がイジメ犠牲者(10代前半から58歳までいて平均年齢が30歳前後)で、女性が23.3%、男性が27.2%と男性患者の割合の方が高かった(家族機能研究所『資料:いじめ被害の後遺症等に関する基礎調査』「アディクションと家族」誌、16巻4号、481-494頁、1999年)。気になったのは、イジメ犠牲者の半数近く(44%)が児童虐待の被害児でもあったことである。生育環境が安全でないと何かが損なわれるのだろう。その欠損が、ある種のフェロモンになってイジメ加害者を呼び寄せてしまうのだと思うが、彼ら犠牲者が加害者に転じることもある。学校時代にイジメ側にまわるだけでなく、成人になってから「児童虐待にはしる母」になったり、「配偶者を殴る夫」になったりする可能性が、どうやら高いようなのだ。

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家族機能研究所代表 精神科医・斎藤学(さいとう さとる)

 1941年東京都生まれ。慶応大医学部卒業、フランス政府給費留学生、国立療養所久里浜病院精神科医長などを経て95年、家族機能研究所を設立。医学博士。アルコール、薬物依存症などの治療方法として、自助グループで語る手法を日本に広めた第一人者。日本嗜癖行動学会理事長、日本子ども虐待防止学会副会長。著書は「家族の闇をさぐる~現代の親子関係」(小学館)など多数。

 2006年11月2日
by miya-neta | 2006-11-02 10:34 | 教 育