「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

クローズアップ2006:イラク・フセイン元大統領死刑(その1)

中近東・ロシア:MSN毎日インタラクティブ


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 ◆「犯罪」解明、困難に

 フセイン元イラク大統領に対する絞首刑が執行されたのは、死刑確定(26日)のわずか4日後だった。イラク北部でのクルド人虐殺(88年)などの真相や、イラン封じ込めのため80年代に米国が旧フセイン政権を陰で支えた外交の裏側などが明らかにされないまま、スピード執行による幕引きとなった。背景には、治安悪化に歯止めがかからない現状をコントロールできないイラク政府の焦りがあるとみられ、1月にイラク新政策の発表を控えたブッシュ米政権の思惑を指摘する声もある。【カイロ高橋宗男】

 ◇イラク政府、早期執行で口封じ

 ◇米、「過去の蜜月」暴露恐れ

 元大統領の死刑執行で、旧フセイン政権の「犯罪」とされる事件の多くは真相の解明が困難になった。イラク政府などが死刑執行による元大統領の事実上の「口封じ」を急いだ背景には、「イラン・イラク戦争(80~88年)などへのかかわりを蒸し返されたくない米国の思惑があるのではないか」との憶測も専門家の間で流れている。

 旧政権の裁判ではイラク北部でクルド人約18万人が虐殺されたとされる「アンファル作戦」(88年)の審理が継続中。イラン・イラク戦争末期にクルド人に化学兵器が使用され約5000人が死亡したとされる「ハラブジャ事件」(88年)▽イラク軍のクウェート侵攻(90年)--などの真相解明も待たれていた。

 だが、今回の死刑判決の罪状はイラク中部でシーア派住民が殺害された「ドジャイル事件」(82年)だけ。民間シンクタンク「湾岸研究所」(アラブ首長国連邦)のムスタファ・アーニ・イラク問題担当部長は他事件の法廷審理を待たず死刑が執行された点を「米国が直接関与した旧フセイン政権の犯罪が明るみに出ないよう米国が関与していないドジャイル事件が選ばれた」と説明する。

 イラン・イラク戦争で米国はイランを封じ込めるため、イラク寄りの立場を取った。ロシアの中東専門家、ドミトリー・マカロフ氏は「米国にとってイラクはイランを処罰するムチだった」と解説する。米国は偵察衛星情報をイラクに伝えたとされ、「イラクは米国から総額15億ドル(約1800億円)に上る兵器を購入した」(マカロフ氏)との未確認情報もある。戦争中にイラクは化学兵器を使用したが、米国は「見て見ぬふりをした」(米通信社記者)との批判もある。

 クウェート侵攻では駐イラク米大使がフセイン元大統領との会談で「米国は領土問題には関心がない」と述べ、イラク側に「米国が暗に青信号を出した」と解釈されたとの指摘もある。

 酒井啓子・東京外国語大学大学院教授(中東政治)は「死刑執行はイラク政策見直しで米軍の段階的撤退を準備する米国の事情を印象づける」と説明。1審死刑判決が米中間選挙(11月7日)の2日前▽控訴審による死刑判決確定(12月26日)はイラク新政策発表を控えたクリスマス直後--と米国にとって節目の時期にあたったことから、背景に米国側の事情があったとの見方を示している。

 ◇裁判、公正さに疑義

 死刑は米軍占領下で設置されたイラク高等法廷(旧特別法廷)での裁判の公正さに疑義が渦巻く中で執行された。民主的な裁判手続きの形式を取りながら、旧政権下で弾圧された反体制派が元大統領を断罪、極刑に処する「復しゅう劇」の色彩が濃かった。

 独裁者の犯罪はミロシェビッチ元ユーゴスラビア連邦大統領(今年3月死去)を審理した旧ユーゴ国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)のように国際法廷で扱われる場合が多いが、フセイン元大統領はイラク人によって国内法廷で裁かれた。元国家元首に対する死刑執行としてはルーマニアのチャウシェスク元大統領が89年12月に特別軍事法廷で死刑判決を受け、銃殺刑に処せられた例がある。

 フセイン元大統領の裁判を巡ってはイラク政府の干渉とも受け取れる事態が相次いだ。「被告に寛容すぎる」との理由で裁判長が交代させられ、マリキ首相(イスラム教シーア派)は死刑確定を待たずに「年内に執行されるべきだ」と主張。首相は旧政権時代に死刑判決を受け、イラン、シリアに亡命していた。

 さらに土壇場で執行日時に関し「一両日中」「1カ月以内はない」などイラク政府当局者の発言が混乱。死刑制度反対のタラバニ大統領(クルド人)の署名が必要かどうかで政府部内で論議となり、執行命令書に署名したのは元大統領の早期排除を望むマリキ首相だった。

 国際社会でも「裁判の独立性」への疑念がくすぶる。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは(1)公正さと中立性の欠如(2)イラク政府の干渉(3)関係者の安全確保の不十分さ(4)被告、弁護団の権利侵害--などを指摘し、「裁判には深刻な欠陥がある」と批判。国連人権高等弁務官も「公正さを懸念する」との理由からイラク当局に慎重な対応を求めていた。

 ◇執行直前「私のいないイラクなど無意味」--立ち会いの安全保障顧問「奇妙なほど従順」

 【カイロ高橋宗男】「私がいないイラクなど無意味だ」--。絞首台に向かう際、こう言い放ったフセイン元大統領は目隠しのためのずきんをかぶるのを拒み、手錠をかけられたまま、覆面男たちの手で首に縄を巻かれた。旧フセイン政権時代に多くの人が拷問され、処刑された旧軍情報部施設が元大統領の最期の場所となった。

 立ち会ったイラク政府のルバイエ国家安全保障担当顧問は米CNNテレビに「彼はすっかり弱っていた。おびえが顔に出ていた。奇妙なまでに従順だった」と証言した。米国人は立ち会わず、イスラム教の聖職者も呼ばれなかったという。

 マリキ首相のアスカリ政治顧問によると、元大統領は「最後の言葉」を問われると「神は偉大なり。イラクは勝利するだろう。パレスチナはアラブのものだ」と叫んだという。米誌ニューズウィーク電子版によると、元大統領は覆面姿の執行人に絞首台に導かれながら「こいつらはテロリストだ」とつぶやいたとされる。

毎日新聞 2006年12月31日 東京朝刊
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by miya-neta | 2006-12-31 09:59 | 国 際