「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

【新せかい百科】北京の女呪術師 “邪教”で得る心の平安

中国・台湾|国際|Sankei WEB


 昨年のことである。北京の水ガメとよばれる密雲区の小さな農村に「薩満太太」がいる、というので、友人らと訪ねた。「薩満」とは、英語のシャーマンの語源となる満州語サマンに漢字を当てはめたもので、「太太」とは、既婚女性の敬称。つまり女呪術師である。

 中国の一部農村では今も、病は悪神、悪霊がもたらすものと信じられ、その霊や神との対話によって病を封じる呪術医が存在する。対話の際、飛び跳ねたり、首を振ったりしてトランス状態に陥るので、「跳神」「首振り太太」とも呼ばれる。女真族など少数民族の呪術が、漢族の道教や仏教と融合したものらしい。

 その家に入ると、土間に赤い道教式の祭壇が設けてあり、抹香が鼻孔をついた。隣の寝室に隻眼の薩満太太(76)が寝ていた。「脳出血で寝たきりになり、もう首振りのお告げはできない」と娘が言う。だが、まだ霊力は残っているから、病気を治すことができるのだという。太太は見える方の目でじっと、この友人を見据え、その手をなでながら、「死んだ息子がいるはずだ…」などとお告げを語り始めた。

 ペテンなのか、本当にそんな不思議が存在するのかは、ひとまず置く。

 驚いたのは、村人の太太への信頼の厚さだ。治療の順番を待っていたリューマチらしいおばあさんが「太太の治療は本当によく効く。歩けなかった私が歩けるようになった。この村で太太に救ってもらわなかった者はいない」と強調する。最近は、村人だけでなく北京市中心から都市住民も車でやってくるそうだ。

 中国共産党政権は無神論的教育を主とし、神秘宗教や土俗信仰を迷信、邪教と否定してきた。現実にはしかし、神秘宗教はこんなふうに息づいているばかりか、最近は伝統宗教回帰の傾向が強い。

 2005年に行われた華東師範大学の信仰調査によれば、宗教人口はこの半世紀で3倍の3億人に増えたと推計され、このうち66%が仏教、道教など中国伝統宗教だ。キリスト教も農村にいけば道教色や呪術色がにじむものに変質している。

 そんな傾向は、共産党員にも広がる。江沢民・前国家主席は、全国各地の有名易者をめぐるほどの占い好きらしい。私自身、ある会食の席で、党員のIT社長と物理学者が道教の使い魔「式神」の飼い方について熱心に討論しているのを目の当たりにしたことがある。気功集団「法輪功」に対する大弾圧の背景には、その影響力が党中央幹部の家族にまで及んでいたことへの狼狽(ろうばい)もあった。

 医療・衛生環境の未整備、貧富の格差、拝金主義の横行、モラルの喪失…。そうした現状への不安が人々の神秘主義への回帰を促しているのか。王朝の転覆に神秘宗教組織が何らかの役割を担ってきた中国史を振り返ると、為政者としては心穏やかではなくなるのか、近年、“邪教狩り”が激しさを増してきている。

 だが、薩満太太の村では確かに、その邪教に救われている人々を見た。マルクス・レーニン主義でも「和諧社会論」でも実現できない人々の心の平安が、わずか10元の謝礼と引き換えの太太のお告げで得られるなら、それを否定する理由もあまりないとは思うのだが。(北京 福島香織)

(2007/06/05 08:38)
[PR]
by miya-neta | 2007-06-07 13:09 | 国 際