【解答乱麻】北海道紋別市立渚滑中教頭・長野藤夫 「指導力不足」の陰に
2007年 08月 29日
毎年この時期、前年度認定の「指導力不足教員」が発表される。
平成12年度の65人に始まり、17年度には506人に達したわけだが、この「数字」に首をかしげるのは私だけではあるまい。
全国の公立学校教員およそ90万人中の500人というのは、わずか0.06%だ。この程度で、果たして世間が騒ぐのか、である。常識で考えてみればいい。歩留まりが99.94%を超える工場が問題視されるか。余程のことがない限り、問題視されるわけがない。
しかし、0.06%の「指導力不足教員」は問題視されているのである。理由は決まっている。本当はたった500人程度のはずがないからである。ここにもそこにもあそこにも問題教員がいるから、こんなに騒がれているのである。
多くの教員は頑張っている。私の周りにも、夜の8時、9時まで教材研究や指導プランづくりに励んでいる教員がいる。本当に頭が下がる。
しかし、学級経営ができない、授業が成立しない、行事や問題行動などで生徒の指導や対応が満足にできない、にもかかわらず改善の努力もしないという「指導力不足教員」が、私の現場感覚ではおよそ20人に1人はいる。約5%。
これは、世間の実感と大きなズレはないはずである。工場で5%も不良品が出れば、これは問題だ。「指導力不足教員」が全国に4万5000人もいれば、世間も大騒ぎするはずである。
年代別では40代以上が認定者の8割だ。だが、この数字にだまされてはいけない。彼らは、過去に自己研鑽(けんさん)を怠ってきたツケが回ってきているに過ぎない。
30代以下は若さが未熟さをカバーしているだけだ。不勉強な20代、30代は「指導力不足教員」予備軍なのである。
このような状況の解決のために、何が問われるべきなのかである。
一つは教育委員会の「採用力」である。「指導力不足教員」を採用してしまった責任から逃れることはできない。
学校現場には「期限付き教員」と呼ばれる臨時採用者がいる。その中には、中学3年の学級担任までこなす力量のある教員も少なくない。
一方では、組合活動にばかり熱心で、「心の教育」という言葉にかみついたり、学級担任や中学3年の授業を安心して任せられなかったりする正採用の「指導力不足教員」が少なからずいる。
「指導力不足教員」が採用され、力のある臨時採用者が合格できない教員採用選考検査は見直さねばならない。
もう一つは管理職の「育成力」である。職員団体との難しい状況もあろうが、若い教員への厳しい指導を遠慮してはいなかったか。私も含めて反省する必要がある。
「指導力不足」だけが俎上(そじよう)に載せられ、「採用力不足」や「育成力不足」が問われないのでは、この問題は永久に解決しない。紙幅が尽きた。「ならば、どのようにすればいいのか」という具体的な提案は、別の機会にさせていただく。
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長野藤夫(ながの・ふじお) 民間企業勤務を経て中学教諭に。TOSS中学網走みみずくの会代表。『「美しい生き方」を中学生に自覚させる』など道徳や国語教育に関する著書多数。
(2007/08/29 14:42)