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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

新教育の森:学テ巡り沸く議論 教委の独立性に波及

毎日jp(毎日新聞)


 ◇不参加の愛知・犬山、市長と教育長対立続く
 22日に実施する全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)について、愛知県犬山市が昨年に続いて自治体で唯一、不参加を決めた。しかし、参加派の市長と不参加派の教育長との対立が表面化。テストの意義にとどまらず、教育委員会の独立性にまで及ぶ議論が続いている。【安達一正、花井武人】

 ◆委員交代で逆転狙う

 「義務教育である以上、国の方針に従ったらどうか」「地域や学校で自主的に物事を考えたい。唯一の不参加は誇りとすべきだ」。今年度のテスト参加問題が議題となった2月の市教委定例会。委員が不参加派3人と参加派2人に分かれ、議論の応酬が続いた。全員一致で不参加を決めた昨年とは一転した光景を、議場の隅で田中志典(ゆきのり)市長が見つめていた。

 市長は06年12月に就任。選挙中からテスト参加の方針を表明し、就任後は不参加を推進してきた瀬見井久教育長を「独裁的」などと批判、参加に向けた布石を打ってきた。

 最大の「武器」が、首長の教育委員の任命権。教育委員会は政治的な中立性確保のため、首長から独立して合議制で教育事務を処理する。一方で、委員任命は首長が議会の同意を得て行う。田中市長は委員の任期満了などに合わせ07年12月、委員2人を参加派に入れ替えた。

 市長は地方教育行政法の改正で今年4月から委員の定数増が可能になったのを受け、テスト実施直前の増員も模索した。評決の逆転による参加を目指したが、性急な手法には市議会内から「教委の独自性を尊重すべきだ」などの批判も出て、早期の増員を断念する形で不参加が確定した。だが、市長は「来年は参加する」と話し、4月8日の臨時議会に1人増員の人事案を提案する予定だ。

 ◆授業改革に自負

 一方、瀬見井教育長は「ノーコメント」と表だった市長批判を避けてきた。教育長は97年の就任以来、少人数教育などを柱とする教育改革を推進。テスト参加を拒み、市長の「攻勢」にも無関心を装う背景には、市独自の教育への自負がある。

 市教委によると、市内の小中学校14校のほとんどで、1クラス30人程度の少人数学級を実現。クラス数増加などに対応するため、市は01年度から市費による講師採用を始め、07年度は常勤8人、非常勤55人を採用した。

 「ゆとり教育」による学習量減少を補うためとして、02年度からは小学生向けに独自の副教本(算数、理科、国語)も作成。現場の教師が製作に携わり、子どもらの反応を見ながら毎年改訂作業を行っている。副教本を活用するには授業時間の増加も必要として、04年度からは小中学校に2学期制を導入。年間おおむね30~40時間の授業時間増に結びついているという。

 授業では、子どもを数人のグループに分けて問題を一緒に解かせるなど、子ども同士や教師との活発なコミュニケーションを重視。「子ども主体の授業の中で、子どもたちが自ら学ぶ力を身につけている」と市教委は胸を張る。

 ◆意見交換会でも賛否

 テスト不参加を巡っては、市民の間に賛否の声がある。

 不参加決定後の3月下旬、市教委は市民対象の意見交換会を計4回開催。毎回約50~80人が参加した。

 会場からは「テストによる評価基準は必要で、『良い教育をしている』だけでは納得できない」「自主独立の精神で今後もやってほしいとは思うが、犬山だけが不参加にこだわる現状に違和感を覚える。テストに参加しても独自性がぶれるとは思えない」と参加を望む声が相次いだ。

 一方で、「国が自治体に競争を強いるようなテストには不満。市教委の目指す教育に納得している」「教育内容に自信を持っているのなら、テストは必要ない」と市教委を擁護する声も聞かれた。

 市教委は「寄せられた意見は、学テ問題に限らず、今後の犬山の教育のあり方を考える参考にしたい」と話し、意見交換会を続ける意向だ。

 ◇参加望む民意、反映させたい--参加派・田中志典市長
 --テスト参加を目指す理由は。

 市教委は不参加を決める前に、説明会や意識調査を行うなどして、保護者らの意見を聞くべきだった。参加にこだわっているわけではないが、決定前のそうした努力がなされておらず、手続きに疑問を感じる。不参加の決定に対しては、参加を望む市民の声もある。市民の意見の反映が不十分である以上、参加の声を市教委に伝えることが、市長としての私の役割だ。

 --テストの意義や目的をどう評価するか。

 (学力を測る)評価の物差しとなり、やるだけの意義はある。何事にも長所と短所があるが、良い面を無視して、反対ばかりでは進歩がない。市教委は学テは駄目だと言いながら、業者テストは実施しており、なぜ学テだけこだわるのか分からない。自らの教育に胸を張ることも必要だが、独善的にならず、謙虚に物事を考えてほしい。

 --教育委員の入れ替えの目的は。

 瀬見井教育長を中心とする市教委の取り組み、功績は認める。しかし、誰も教育長に逆らえない雰囲気があり、組織のあり方をもっと民主的に改善すべきだ。そのためにまず2人を入れ替えた。交代により多彩な意見が教委内に出て、学テを巡る議論が活性化したと思う。

 --増員を目指す手法に、教委の独立性を脅かす「政治介入」との批判もある。

 公正な民意を教委に反映させたいとの思いでやっているのに、「政治介入」とは全く的外れの見方だ。委員の交代で議論が深まったが、さらに活性化させ、現在の体制を刷新していく必要がある。

 ◇対抗すべき相手は国--不参加派・瀬見井久教育長
 --なぜ不参加なのか。

 学力テストは教育の中に競い合いの原理を持ち込み、義務教育になじまない。国は「授業改善に役立つ」と意義を主張するが、役立たない。授業改善とは、現場の教師が子どもの姿を見ながら進めるものだ。学力の状況を知りたいのであれば、抽出による実施で十分。

 --決定前に市民の声を聞くべきだとの声がある。

 教委の決定の重みが分かっていない意見だ。制度的に与えられた権限に基づき、5人の委員による合議制で、英知を結集して話し合っている。正当な権限を行使するに際して、あえて広く意見を聞く必要があるのだろうか。

 --市長との対立が注目された。

 学テ問題は国と地方との問題であり、我々のターゲットは(市長ではなく)国だ。市長の委員の入れ替えなどを静観してきたのは、これまでの我々の教育の取り組みに自信があるから。市長の対応でテストの話題が政治問題化した感じはするが、教育委員会の独立性などを考えるきっかけにもなったのでは。

 --2年連続で全国唯一の不参加だが。

 国と地方の義務教育における役割は本来違う。国は少人数教育のための教員増に対応した予算措置を講ずるなど、財政的な機能を果たせばよい。市町村教委は、子どもの学力を保障する責任がある。犬山はこの責任を果たしているから、テストに参加する必要はない。他に不参加がない現状は、犬山以外の教委が責任を果たしていない表れ。テストの話題ばかりが騒がれるが、こうした現状こそ、義務教育にとって憂うべき問題だ。

毎日新聞 2008年4月7日 東京朝刊
by miya-neta | 2008-04-07 08:14 | 教 育