高校新指導要領 「脱ゆとり教育」をどう生かす
2008年 12月 23日
学習内容を「ゆとり教育」前の水準に近づけ、中学校までに習った内容の定着も図る。文部科学省が公表した高校の新学習指導要領案を、端的に言えばこうなろう。
2013年度から実施の予定だ。高校生の能力を伸ばせるかどうか、学校現場の努力と工夫が問われることになる。
ゆとり教育が打ち出された現在の指導要領では、学習内容がそれ以前に比べて3割削減された。
今回の改定案は、学力低下が指摘される理数では、前々回の1989年改定時の水準に戻した。覚える英単語数も、中学校と合わせて800語増の3000語とし、70年代後半並みにした。
教える内容を抑制する“歯止め規定”もなくした。今年3月に出された小中学校指導要領の「脱ゆとり」路線の延長といえよう。
国際学力調査などで、身につけた知識を使って問題を解決していく力に課題がみられたため、各教科・科目でこうした力の育成を重視したのも特徴だ。
文科省の調査によると、2006年度の場合、3割の国公私立大学が基礎学力の足りない学生などに対し、高校の学習内容について補習を実施している。
知識を活用していく力をつけるには、第一に基礎知識をしっかり習得させねばならない。
改定案で疑問なのは英語だ。
「聞く、話す、読む、書く」という四つの能力を総合的に身につけられるよう再編成し、中学校レベルの基礎的な授業も行えるようにしたのは、まず妥当だろう。
しかし、「授業は英語で行うことを基本」としたのは、無理がないか。会話をはじめ、実社会で使える英語力の育成が狙いのようだが、性急な改革は消化不良を起こす恐れがある。
どういう授業を目指すのか。文科省は、説明会や今後出す解説書で狙いを明確にすべきだ。
一方、必修科目について議論のあった地理歴史では、従来通り、世界史を必修、もう1科目を日本史、地理から選ぶこととした。
神奈川県教委は「国際社会で生きていく基盤として重要」と判断し、新指導要領実施と合わせて「郷土史」などを新設した上で日本史を必修化する方針だ。
改正教育基本法では、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」ことが盛り込まれた。自国の歴史をどう教えていくのか。文科省は教委の動きを静観するだけでなく、改めて検討する必要があろう。
(2008年12月23日01時41分 読売新聞)