【オバマ大統領就任演説全文】(日本語訳)
2009年 01月 22日
世界は変わった。われわれも変わらねば (3ページ) - MSN産経ニュース
2009.1.22 02:23
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■危機のさなか
国民の皆さん。私はきょう、今後の任務を前に謙虚な気持ちで、皆さんから授かった信頼に感謝し、われわれの祖先が払った犠牲に思いを致してここに立っている。私は、ブッシュ大統領が行ったわが国への奉仕と同時に、政権移行期間を通じて見せてくれた寛大さと協力に、感謝している。
これで44人の米国人が大統領就任の宣誓をしたことになる。宣誓の言葉は、繁栄のうねりの高まりの中や平和の静かな流れの中で、述べられたこともあった。宣誓はしかし、しばしば、立ちこめる暗雲や荒れ狂う嵐のただ中でも行われた。
そうしたときも米国は前に進んできた。単に指導層に手腕や構想があったからだけではなく、われわれ人民が祖先の理念と建国の文書に忠実であり続けたからだ。これまでもそうだったし、米国民の現世代でも、そうでなければならない。
われわれが危機のさなかにあることは今や、よく理解されている。米国は戦争中だ。暴力と憎悪の広範なネットワークに対する戦いである。米国経済は著しく弱体化した。一部の者の強欲と無責任の帰結であり、厳しい選択をし国家として新しい時代に備えるのを集団で怠ったせいでもある。住宅は失われ、雇用はなくなり、事業所は閉鎖されている。われわれの医療はあまりにも高くつき、学校は多くの期待を裏切り、エネルギー消費のありようが敵対者を強くして、地球を脅かしているという証拠は日々、積み上げられている。
これらは、データや統計に基づけば、危機の指標である。計測はできないものの、劣らず深刻なのは、米国を覆う自信喪失だ。米国の衰退は不可避で、次世代は目標を低くしなければならないという、つきまとって離れない恐怖である。
私は本日、われわれが直面する試練は現実のものだと申し上げる。試練は深刻で数多く、容易に、あるいは短期間で立ち向かえるものではなかろう。だが、米国よ、知っておいてくれ、われわれは立ち向かうと。
われわれはきょう、恐怖ではなく希望を、紛争や不和ではなく、目的の一致を選んだがゆえに、ここに集まった。きょう、米国政治を締め付けてきたささいな不平と誤った約束、批判とすり切れた教義に終わりを告げるためにやってきた。
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■最も力強い国
われわれはまだ若い国家だ。だが、聖書の言葉にかけて、幼稚なことを捨てるときが来た。われわれの揺るぎない精神を再確認し、より良い歴史を選択し、あの貴重な贈り物、世代から世代へ受け継がれてきたあの崇高な理念、つまり、すべての人間は平等かつ自由で、最大限の幸福を追求する機会が与えられるべきだという神の与え賜うた約束を推進すべきときが来た。
米国の偉大さを再確認するに際し、それが天から与えられるものでないことを理解する。それは勝ち取らなければならないものだ。
われわれの旅は近道や楽な道だったことは決してなかった。臆病者の道、仕事より余暇を好んだり、富裕や名声の喜びを求めたりする者の道ではなかった。むしろ、リスクを取る者、実行する者、ことをなす者たち、一部は有名であれ、多くは目立たず苦労している男女こそが、われわれを繁栄と自由への長く険しい道へと運び上げてくれた。
われわれのため、彼らはなけなしの財産をまとめ、新しい生活を求めて、大洋を横断した。われわれのため、彼らは搾取工場で苦労し、西部に入植し、むち打ちに耐えて、荒れ地を耕した。われわれのため、彼らはコンコード(独立戦争)やゲティズバーグ(南北戦争)、ノルマンディー(第二次大戦)、ケサン(ベトナム戦争)のような場所で戦って没した。
何度となく、これらの男女はもがき、自らを犠牲にして、われわれの生活が良くなるように、手の皮がむけるまで働いた。彼らは、米国を、個人の野望の総体より大きく、出身や富や党派のあらゆる違いよりも偉大なものととらえてきた。
われわれの旅は続いている。われわれは依然として地球においてもっとも栄えた力強い国である。われわれの労働者は、この危機が始まったときより生産性が低いわけではない。独創性が少ないわけではない。米国のモノとサービスは先週にも先月にも昨年にも劣ることなく求められている。われわれの能力は変わらない。しかし、現状を維持し、限られた利益を守り好まない決定を先送りするときは終わった。きょう、われわれは起き上がり、ほこりをはらい、米国再生の仕事を再び始めなければならない。
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どこを見渡しても、やらなければならない仕事がある。米国経済は大胆で迅速な行動を求めている。われわれは雇用創出だけでなく、成長の新たな基盤を築くために行動する。商業に力を注ぎ、われわれ同士を結びつける道路や橋、配電盤、デジタル回線を構築する。われわれは科学を正しい場所に戻す。医療の質を向上し、コストを削減するために、驚嘆すべき技術を巧みに使う。太陽光と風力を車の燃料に、工場を稼働するために活用する。新時代に合うよう学校や大学を変革する。これらすべてをわれわれはできるし、やっていく。
■尊厳ある未来
今、われわれの向上心に疑問を持つ人がいる。われわれのシステムはあまりに多くの大きな計画に耐えられないとささやいている。彼らの記憶力は乏しい。なぜなら、この国がすでになしてきたことや自由な男女が達成できること、想像力が共通の目的と勇気の必要性と合わさったときを、彼らは忘れてしまったからだ。
皮肉屋は彼らの足元が動いたことを理解できない。われわれを消耗させてきた古い政治的な論議はもはや通用しないことを理解できない。
われわれが今日問うべきなのは政府が大きすぎるか小さすぎるかではなく、政府が機能するか否かだ。まともな賃金で、支払い可能な医療保険と、尊厳ある退職後の生活を送れる仕事を国民が見つけられるよう助けられるかどうかだ。答えがイエスなら、われわれは前に進む。答えがノーなら計画は終わる。
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【オバマ大統領就任演説全文(2)】
ありがとう。みなさんに神の祝福を (3ページ) - MSN産経ニュース
公共のドルを扱うわれわれは、お金を賢く使い、悪習を改革し、白昼の下で仕事をすることが重んじられる。なぜなら、それで初めて、われわれは人々と政府との間の信頼関係を取り戻すことができるからだ。
市場(経済)が善か悪かも問題ではない。ただ現在の危機は監視がなければ市場は空回りすることを思い起こさせた。富裕層だけを優遇すれば国家は長く繁栄できない。米国経済の成功は、国内総生産(GDP)の規模ではなく、富の普及と意欲ある個人の機会を拡大する能力に依ってきた。慈悲によってではなく、それが共通の利益にとって最も確かな道であるからだ。
われわれの共同防衛に関しても、安全と理想のどちらかを選択するというのは偽りだと拒絶する。われわれの建国の祖は想像を超える危機のなかで、法の支配と国民の権利を保障する憲章を起草した。憲章は何世代もの犠牲のうえによって拡充されてきた。これらの理念は今も世界を照らしており、われわれは自己都合で手放したりはしない。最も繁栄している首都から私の父が生まれた小さな村まで、今日この日をみているすべての人々、政府に言いたい。米国は平和と尊厳のある未来を求めるどの国に対しても、どの男性、女性、子供に対しても友人であり、われわれがもう一度指導的立場に立つ用意があることを。
先人たちがファシズムや共産主義に対して、ミサイルや戦車だけでなく、強固な同盟と揺るぎない信念を持って対峙(たいじ)したことを思いだしてほしい。彼らは単独では自らを守れないことも、その力を好き勝手に使うのは許されないことも理解していた。慎重に使うことで力が増すということを知っていた。安全は正当な大義、模範を示す力、謙虚さや自制から生まれてくる。
われわれはこの遺産を守る。これらの理念にもう一度導かれることで、さらなる努力や国家間の一層の協力や理解が求められる新たな脅威に立ち向かうことができる。われわれは責任ある形でイラクをその国民に委ね、苦労しながらもアフガニスタンに平和を築く。昔からの友人やかつての敵とともに核の脅威を減らし、地球温暖化防止に努力する。
■新時代を先導
われわれは自分たちの生き方について謝ることはしないし、それを守ることに躊躇(ちゅうちょ)はしない。テロを起こし、罪のない人々を殺して目的を達成しようとする人たちに告げよう。われわれの精神はより強く打ち砕かれることはない。われわれはあなたがたを打ち破るだろう。
われわれの受け継いだつぎはぎ細工の伝統は強さであり弱みではない。われわれはキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、そして無神論者の国だ。地球のあらゆる場所からもたらされた言語、文化で形作られている。
南北戦争や人種隔離のつらい経験を経て、団結し暗黒の時代を抜け出した。憎悪をいつの日か乗り越え、民族を隔てる線も消え、世界が小さくなるなかで共通する人間愛があらわれ、米国は平和の新時代を先導する役割を果たさなければならないと信じずにはいられない。
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イスラム世界に対し、相互の利益と相互の敬意に基づいた新たな道を模索する。紛争を引き起こし、自分の社会の問題の責任を西側に押しつける世界各地の指導者よ、国民はあなたが何を築けるかで判断するのであって、何を破壊するかで判断したりはしないことを知るべきだ。腐敗や欺瞞(ぎまん)、反対者への抑圧を通じて権力の座にしがみついている者たちよ、あなたたちは歴史の誤った側にいる。もし握っているこぶしを開くなら、われわれは手を差し伸べる。
貧しい国々の人たちには、農場に作物が豊かに実り、清潔な水が流れ、飢えた体と心に栄養を与えるために一緒に働くことを約束する。われわれと同じく富んでいる国には、国境の外で苦しんでいる人々に無関心でいることはもうできないと言いたい。結果を顧みずに資源を浪費することは許されない。世界は変わったのだから、私たちもともに変わらなければならない。
われわれの目の前に広がる道について考えるとき、今このときも、はるか遠くの砂漠や山岳地帯をパトロールしている勇敢な米国人がいることを感謝の念を持ちながら思いだす。アーリントン(国立墓地)に眠る英雄たちが時代を超えてささやくように、彼らの存在はわれわれになにかを語りかけてくる。われわれは彼らを誇りに思う。彼らが自由を守ってくれるからだけでなく、奉仕の精神を体現しているからだ。それは自身よりもより大きな意義あるものをみつけようとする意志である。世代を特徴づけるこのときに、われわれすべてが持たなければならない精神だ。
政府ができること、しなければならないことはあるが、最終的に米国が依って立つのは国民の信念と決意しかない。堤防が決壊したときに見知らぬ者を泊めるのは親切心であり、逆境の時を切り抜けさせてくれるのは、仲間の失業を見るより自分が働く時間を短縮したい労働者たちの無私の精神だ。最終的にわれわれの運命を決定するのは、煙に包まれた階段に突進する消防士たちの勇気であり、子供を養育する両親の意志でもある。
われわれが立ち向かう挑戦は新しいものかもしれない。われわれが立ち向かう手段も新しいかもしれない。しかし、われわれの成功は誠実、勤勉、勇気、公正、寛容、好奇心、忠誠と愛国心といった価値観にかかっている。これらは昔から変わらない真実だ。これらは歴史を通じて、進歩を遂げるための静かな力となってきた。求められているのはこれらの真実に立ち返ることだ。
われわれが現在求められているのは、新たな責任の時代である。米国人一人一人が自分自身と米国、世界に義務を負うことを認識することだ。そしてその義務は、困難な任務に持てる力のすべてをささげることほどわれわれの精神を満足させ、われわれを特徴付けるものはないとの信念を持ち、いやいやではなくむしろ喜んで引き受けるものだ。
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これこそ市民であることの代償であり約束であり、われわれの自信の源だ。未知の未来を形作るよう神が求めている知見だ。
これが自由と信条の意義である。なぜ、あらゆる人種、宗教の老若男女がこの素晴らしいモールでの祝典に参加できるのか。なぜ60年足らず前ならば、地方の食堂で食事をすることすら許されなかったかもしれない父親を持つ1人の男が、最も神聖な宣誓を行うためにあなた方の前に立つことができるのだろうか。
われわれがだれであり、どれほど長い旅をしてきたかを思い起こし、その記憶とともにこの日を祝おう。米国誕生のとき、厳寒のなかで愛国者の小さな一団は凍りついた川のほとりで、消えそうになるたき火のそばで身を寄せ合っていた。首都は放棄され、敵は進軍していた。雪は血で染められていた。アメリカ革命の行方が最も疑問視されたとき、建国の父はこの言葉を人々に読むよう命じた。
「冬のさなか、希望と美徳だけが生き延びたとき、共通の危機に脅かされながら、その難局に立ち向かう国家や都市が出現したと未来の世界で語られるようにしよう」
米国よ。共通の脅威に直面し、苦難の冬のなかで、時代を超えたこれらの言葉を思いだそう。希望と美徳を持ってこの凍える流れに勇気をもって立ち向かい、どんな嵐にも耐えよう。そしてわれわれの子孫に語り継がれるようにしようではないか。試練のときに、われわれは旅を終わらせるのを拒み、ひるみもせず、後退することもなかったと。地平線をみつめ、神の恵みをいただきながら、自由という神からの偉大な贈り物を運び、未来の世代に無事手渡したと。
ありがとう。神の祝福がみなさんにあらんことを。神の祝福が米国にあらんことを。
(ニューヨーク 長戸雅子、ワシントン 有元隆志、渡辺浩生)