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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

未来が見えますか:人口減時代の日本 第1部・少子化の風景/1(その1)

MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ


 子どもが減り、老人が増え、日本の人口は06年をピークに減り始めるとみられている。人口増加が基調だった明治以降では初めての経験だ。どんな未来が待ち受けているのだろう。働き手が減って衰退の時代を迎えるのだろうか。人口の停滞という点でよく似ている江戸時代後期やルネサンス期のイタリアのように、華やかな文化の時代の幕が開くという見方もある。未来を読み解く手始めとして、子どもが生まれにくい日本社会の現実を見る。【「未来が見えますか」取材班】

 ◇ためらう「2人目」--再就職と保育園に壁

 ◇子どもは大切、でも自分も大切にしたい

 ■厳しい現実

 猛暑が続いていた昨年8月。8カ月の息子を義母に頼んで東京都内の自宅を出た山口淳子さん(33)は都心のオフィスビルにある外資系企業の本社に向かった。以前勤めていた会社の上司が紹介してくれた再就職口。スーツに身を包み、山口さんは30代後半の女性面接官と向かい合った。

 面接官がたずねた。

 「私は結婚していないし、子どももいません。もしいたら、責任ある仕事ができるとは思えないので、働くつもりはありません。あなたはどうお考えですか?」

 先制パンチだった。「女性でも仕事を持っているほうが、子どもに良い影響を与えられると思います」。必死に言葉を選んだ。同時に「最初から採用する気がないのかな」と感じた。面接のあと、職場復帰を応援する会社員の夫(32)と昼食を取ったが、会話は弾まなかった。結果は不採用。「女性同士ならではの『壁』。でも私だって、出産前は『子どもが熱を出したから休むなんて、優遇されている』と思っていた」

 結婚9年目、31歳で妊娠した。当時勤務していた会社ではリストラの嵐が吹き荒れていた。「育児休業を取ったら会社にはいられないだろう。子どもを産んで、落ち着いたらまた働けばいい」と思い、妊娠中に会社を辞めた。「外資系なら小さな子がいても、働くうえで障害はないだろう」と転職に備え、出産前まで経理学校にも通った。でも、現実は厳しかった。

 「壁」は再就職だけではなかった。保育園を探そうと区役所に問い合わせると「お母さんが働いていることが原則ですよ。仕事はない、内定もないではねぇ……」と言われた。「子どもを保育園に入れなければ働けない」。職場と保育園から閉ざされる二重苦を、山口さんは痛感した。

 「母親にとって子どもはかけがえのない存在。それでも、息子だけが生きがいの人生は送りたくないし、それは息子にとっても重荷になるはず」という山口さんは、自分の人生も、息子の人生も犠牲にしたくない。ただ、その解決策が見つからない。そして、「息子のためにもう1人産まなければ」という義務感と、「2人産んだら仕事は無理かも」という焦燥感が、日々、胸中を交錯する。

 ■生活が一変

 都内在住の大柴美子さん(29)。毎週土曜日に子どもが通っているスイミング教室で、3歳の一人娘は親と離れたとたん、大泣きしながら「バイバイ」と手を振る。物心がついてきた娘を見ると兄弟がいたほうがいいと思うが、今すぐ産む気にもなれない。娘を習い事に通わせる費用に充てるためパートをしながら、「一気に子育てを終えて10年後に楽になるか、年齢を離して育児をやり直してずっと母親をやっているか」と迷ってしまう。

 出産後、子ども中心の生活になり、自分自身のことに目が向かなくなった。子育て支援サークルにも出かけてストレスをためないようにしている。でも「温泉に行ってスノーボードをするとか、六本木に遊びに行くとかが、遠いことに思える」。近くのスーパーでミルクやオムツの新製品を探すのが楽しみになった自分に驚く。夫が夜勤明けの土曜日は、うるさくないようにと、娘を連れて行き場を探す。

 今は毎週土曜日、子連れの母親が集まるカフェで過ごす。「同じ年ごろの子どもがいるお母さんと話し合えて安心できる。こういう場所があれば、2人目もいいかなと思うのだけれど」

   ◇◆  ◇◆

 国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査では、40代前半の既婚女性の子どもの数はこの30年間2・2人で、ほとんど変わっていない。だが90年以降、もっとも子どもを産む年代である20代後半から30代前半の既婚女性に大きな変化が起きている。子どもの数は、87年には20代後半で1・3人、30代前半で2人。20代で子どもを1人、30代で2人目というのが平均的だった。しかし、02年には30代前半の子ども数は1・5人に急減し、一方で、20代後半は1人で下げ止まっている。30代の女性が2人目を産まなくなっている。<題字は書家・中野北溟氏>(3面につづく)=次回から3面に掲載

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毎日新聞 2005年1月5日 東京朝刊
by miya-neta | 2005-01-09 10:01 | 社 会