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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

「住んではいるが暮らしていない」シングル女性

asahi.com : 住まい


鈴鹿 規子

 働くシングル女性たちに「暮らしと住まい」についての意見・要望を何回かに分けて聞いてみた。中年女性と比べると、本音と建前を使い分けるのがシングルの特徴、という印象。開き直る年代に入る前の「見え」のなせる技であろう。「きちんと暮らしているフリ」をするのである。初回のインタビューでは、皆口をそろえて「料理も掃除もこまめにするし、週末にはガーデニングを楽しんでいる」などと言っていた。最近のシングル女性は、仕事も家庭での暮らしもきちんとやっていてすごいなーと思った。

 ところが、である。料理の種類や調理にかける時間、掃除の頻度と方法など、細かい話になったところでめっきがはがれた。料理などしていないのである。「日々の料理はしていないのだから、コーヒーメーカーと電子レンジさえ置く所があれば、キッチンはいらないのでは」と問うと「絶対必要」と言う。

 「やりもしない料理のために広い面積を取るくらいなら、リビングを広くした方がいいじゃない」と言うと、「いざという時のために、キッチンは絶対必要」と言い張る。「いざという時」とは、一体どんな時なのだろう。

 ボーイフレンドができて手料理を食べさせる時なのである。多くのシングル女性は、近い将来理想的な男性が現れて彼においしい手料理を食べさせ、「結婚するにふさわしい女性だ」と思わせることを計画しているらしい。日頃やってもいない手料理で?と思ったが、そこはちゃんと考えている。

 いざという時の定番は「鍋」なのだ。これなら材料を吟味して、野菜を切りさえすれば一応おいしいものができる。「鍋なら卓上コンロでもできるじゃない」と言うと、それではダメで、キッチンがないと日頃料理をしていないことがばれるし、女性らしいイメージを演出するためにもキッチンはぜひとも必要と言う。

 平日は残業が終わると外食またはコンビニ弁当で夕食をすませ、シャワーを浴びたらバタンキュー。朝もギリギリの時間に跳び起きて、慌ただしく身づくろいをして出かける。週末にまとめて掃除・洗濯をし、友人と出かける。のんびり家に居る時間が少ないのである。これではとてもガーデニングなんて暇はなさそう。季節や気分に合わせて模様替えをしたり、音楽を聴きながらゆっくり手作りブランチを楽しんだりという時間もない。

 シングルは「この住形態は過渡期のありよう。近い将来結婚するまでの仮の宿」と、現在の住まいをとらえ、住まいのもつ重要性を過小評価しているようだ。

 私は大昔、大阪万博の時に一緒に働くカナダ人2人と千里外人村の3DKのアパートに6カ月間住んだことがある。その時私は「6カ月しか住まないのだから、各個室に備えられたベッドやカーテンで十分」と思ったが、ルームメートのカナダ人たちは違った。「6カ月も住むのだから」とベッドカバーを染め、カーテンを掛け替え、壁にはお気に入りのポスターを張り、電気の笠も取り換え、何とか自分らしいインテリアにして住み心地を良くしようと頑張っていた。「住まいが人間に与える精神的影響をおろそかにするものではない」と、私にお説教までしていた。彼女たちは日々の暮らしをとても大切にする。着るものより、食べるものより、住空間の居心地のよさに手間も時間もお金もかけていた。

 そもそも、私はその時点から住空間に興味を持ち始めたのであるが、なるほど住まいはそこに住む人に多大な影響を与える。日照・通風のみならず、窓から見える景色、行動がスムーズになったりストレスになったりするのを左右する動線、収納の質と量も快適性を大きく変える。

 生活の3要素、衣・食・住の中で、日本においては食と衣は質量ともに足り過ぎている。住に関しても住戸数は世帯数に対してオーバー気味であるが、質はまだまだ改善の余地がある。「今の住まいは仮の住まい」という意識では、住まいと暮らしの質が上がらないのは明白である。

(2005/02/18)
by miya-neta | 2005-02-18 20:31 | 女 性