専門家つなぎ「女性外来」の旗を振る 対馬ルリ子さん(46歳)
2005年 02月 19日
専門家つなぎ「女性外来」の旗を振るウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック院長
対馬ルリ子さん(46歳)
めまいが続く、月経の前は仕事に集中しにくい、なんとなく体調が悪い……。女性ならではの心と体の不調を医師らが総合的にみる「女性外来」が、ここ数年次々と誕生している。全国にざっと90カ所。その旗振り役だ。
東京・銀座のビル3階。陽光が差し込む診察室で、じっくり患者の話を聴けるのは、完全予約制だから。「こんにちは、対馬です」。初めて会う患者に、名乗って診察を始める医師は少ない。この一言で患者は緊張がほぐれ、学校の保健室にいるように症状を話しやすくなる。
現在の保険制度では、患者の訴えを3分聞いても、1時間聞いても診療報酬に差はつかない。他の病院で「3分診療」された働く女性たちを中心に、年間約2万人がここを訪れる。
「女性特有の症状に詳しくて、解決方法を提案してれる専門家の友だちがいたら心強いでしょ。こちらの部屋へどうぞ、という感じです」
20代向けの基本検診なら、子宮頸(けい)がん検診、乳房触診などのセット料金は、全額患者の自己負担で2万8000円。首都圏の女性が髪のカット、カラーリングやパーマにかける金額とそう変わらない。つまり、女性たちが自分の健康に投資しているのだ。実際、検査した3人に2人の患者から異常が見つかり、「長い目でみると医療費の抑制につながる」と主張する。
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弘前大学医学部長から同大学長を務めた祖父、青森県八戸市で耳鼻科を開業する76歳の父、2人の妹は薬剤師と歯科医。叔父も叔母もいとこも米国で医師、という環境に生まれた。
弘前大に進み、「医療の現場で『おめでとう』と言いたくて」産婦人科医を希望した。内科医と結婚、子育て中も大学病院や都立病院で月6、7回の当直勤務をこなした。その後、「時間に追われず女性の健康づくりに力を注ぎたい」と、01年に女性外来の世界に飛び込んだ。
従来の医療の枠を超え、同じ思いの仲間たちとも連携する。
97年、「性と健康を考える女性専門家の会」に発起人として参加。低用量ピルの解禁を前に、当事者の医師として賛成の声を上げた。養護教諭、大学教員ら参加者は640人ほどに増え、先進地・米国の女性医師との情報交換や、乳がん予防、禁煙講座を開く。また各地で孤軍奮闘する医師同士で支えあおうと、03年には「女性医療ネットワーク」も立ち上げた。
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1人の女性が産む子どもの数は減り、現代の女性は平均すると、生涯に400~500回の月経を重ねる。妊娠と出産を繰り返していた戦前の女性に比べ、それだけホルモンの影響を大きく受ける。そして仕事に子育て、介護と、てんてこ舞い。
「じっくり話を聴かせてもらって、長くなった一生を健康に過ごすための情報提供をしたい。それから、その人が納得したうえで治療法を選べるように橋渡しをしているんです」
◆閉経後30年どう生きるか 前人未到の領域に挑む
日本女医会のシンポ。国内外の性教育の取り組みについて意見を交わす=1月、東京・芝で、佐藤慈子撮影
――患者は女性外来に何を求めているのでしょう。
対馬 産科は妊娠した人が行く所、また婦人科は敷居が高そう、などと敬遠されたこともあるでしょう。たとえば更年期障害でめまいが出れば、脳外科や耳鼻咽喉(いんこう)科、不安に対しては精神科、骨がもろくなれば整形外科、と検査を重ね、薬ばかり増えることもあります。診療科を限定せずに、患者さんの悩みをまず聴く。
◆総合診療目指す
――入り口が一つなのですね。
対馬 これからの医療は、病気の早期発見や予防の知識を得て、自分の健康を自分で実現していくヘルスケアの分野に進むべきだと思います。メンタルケアも含めて、医療や介護に携わる人たちが垣根なく組むことが必要です。私たち現代の女性には閉経後30年の人生をどう生きるかという、前人未到の領域が待っています。思春期から老年期までのライフサイクルと保健ニーズに合わせた解決策を提案したいのです。
――昨年12月にクリニックを拡充しました。
対馬 乳腺外科、内科、心療内科の専門家が加わり、女性のための総合診療を目指しています。鍼灸(しんきゅう)やアロマテラピーも採り入れました。患者さんからは、一カ所で便利で安心と喜んでもらっています。またこれからは診察だけでなく、子宮内膜症や更年期など同じ症状で悩む人たちが集まり、話しあったり情報交換したりできる場所にもしたいのです。
――そもそも女性外来を目指した理由は。
対馬 97年に「性と健康の会」を始めてから、健康トラブルを起こさないための医学的知識や工夫を女性に提供する場が欲しくなりました。当時の厚生省に掛け合っても反応は鈍く、大学卒業後に入局していた東大医学部の上司も「大学では他の診療科の領域侵犯となってしまうから無理だ」と。でも女性外来を求める動きが高まっていて、共鳴した女性や医師たちに出会えたのです。
◆20年悩んだ患者
――それで実践に入った。
対馬 都立病院にいたとき、同僚の男性医師も理解してくれて私を送り出してくれました。当時、女性外来の先駆けになったクリニックに移って、最初の患者さんは70歳。膣(ちつ)が裏返って出てしまう子宮脱でした。お通じや座るたびに痛むのに「恥ずかしいから」と、20年も我慢していた。話をしていると「疲れやすい」、「汗をかきやすい」と次から次へ気になる症状が出てくる。採血してみると糖尿病もありました。たぶん、婦人科だけなら、子宮脱しか診てなかったと思います。
――総合的判断が必要な、女性外来の担い手は足りていますか。
対馬 信頼しあえる本当にいい医者に性別はないと思っています。ただ、不妊のこと、子育てや夫との関係、仕事と育児や介護など、同じ女性として患者さんと共感できる部分がある。しかし何よりも、今までの医療風土のなかで、一線に残って一つの科のプロとして完成している女性医師が少ないですよね。
――厳しい状況ですね。
対馬 保健や介護の分野は圧倒的に女性の力が必要。女性は平均寿命が長いし、長く働けると思うんです。医学部卒業のときは、みんな希望に燃えていたのに、10年20年後には、ほとんどが結婚や出産などでフルタイムで働けないというのは、とてもとても残念。だから今のクリニックでは、子育て後に、気合を入れ直した女性たちに加わってもらっています。
――ご自身も働き続けてこられました。
対馬 とにかく続けたい、どうしてもだめならそのとき考えよう、と。夫に辞める選択肢がないのに、なんで私が辞める選択肢を考えなくちゃいけないんですか。子育て中は勤務医で、当直や夜中の呼び出しもしょっちゅうでした。夫とベビーシッターさん、マンションのお隣さんに、保育園や幼稚園のお友だちのお母さん。大勢の人に助けてもらいました。
――医師一家ですね。
対馬 開業医の三人娘の長女です。親は何も言いませんでしたが、周りの人から「女の子で残念」と言われて。中、高校で成績が良いと知ると「お医者さんになって跡を継いだら?」って。どうして人の生き方に指図するんだと腹が立った。こうして思い出してみると、患者さんたちの悩みとは、自分の本当にやりたいことと、他人から言われることが一致しないことからなんですね。それは治療方法を巡っても同じ。自分がどうしたいのか、自分で選ぶことが必要なのです。
◆10代に窓口開く
――性教育にも熱心ですね。
対馬 病院には性感染症になった10代の子がやって来るのが現実です。相手を思いやり、自分を守ること、性衝動とポルノとの違いなど、ビデオやスライドを使い具体的なデータとともに示しています。01年度からの3年で日本女医会の指導者養成講座には1246人が参加しました。その医師たちが地域や学校とのつながりを持ち始めています。そうしたリーダーのいる青森、群馬、京都などでは中絶率が減ってきています。地道に事実を積み上げていくしかありません。クリニックでも4月から日曜日に、気軽な相談窓口「ティーンズ外来」を開く予定です。
――今後の目標は。
対馬 女性は家族の中心。子ども、夫、親と、家族の健康の変化に気づきやすい立場です。だからまず女性が健康であって欲しい。そして家庭医、かかりつけ医として、将来的には家族をみとった後の心身のケアまで担いたいと思っています。
(「ランキンブック」に関連する本のランキングを掲載)
編集部・大野さえ子
◆ 転機 ◆
診察切り上げた患者の涙に悔い
都立病院勤務のころ、いまでも忘れられない出来事があった。
午前9時から正午までに約50人の外来患者を診察していた。午後1時から手術の予定があるのに、昼食時間を飛ばしても診察が終わらない。手術室からは「もう麻酔がかかってます。早く来て」とせかされる日々だった。
「はい、どうしました?」
「はい、じゃあ検査」
「はい、お薬、出しておきますから、また今度」
いやおうなく、慌ただしい診察になってしまう。女性医療を充実させたいと、97年に「性と健康を考える女性専門家の会」に加わったのに、忙しさが先に立ってしまった。しかも診察スペースと待っている患者の間はカーテン一枚。痛みに悲鳴を上げる隣の患者の声。それに対して「我慢できないなんて、わがままだ」という医師の声が聞こえてくる。
そんなある日、40代の女性が外来にやってきた。性感染症への不安を抱えていたようだが、詳しく聞こうとしても、やりとりが続かない。大きな悩み、問題を抱えているようなのに、女性は口を開けない。沈黙が続く。
それでも10分は話しただろう。だが大病院で1人に10分なら、その後ろに5人待っている状況だ。
思いあまって「時間がないから、行かなくちゃ」と伝えた。するとその女性は「先生に聞いて欲しかったし、先生ならわかってくれると思った」と、ぽろぽろ涙を落とした。
それ以来、彼女は二度と外来に現れなかった。
現在のクリニックの診察室では患者と医師が同じつくりのいすに座る。患者の話に医師が耳を傾け、医師は知識と技術を提供する。
また、内診台のそばには、靴を脱いでも体が冷えないようにマットを敷き、検査後に使えるようナプキンもかごに入れた。そんな小さな気遣いがあちこちにある。
患者とじっくり話して、その人が納得して治療法を選べるよう心がけている。あの日、彼女の心の底にある思いをくみとれなかった自分の悔いと、彼女の涙があったからこそだ。
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★クリニック 患者は20~30歳代の働く女性が多い。仕事や買いもの帰りの人、旅行も兼ねて四国から訪れる人も。
★家族 研修医仲間だった内科医の夫(47)は茨城県にある病院の副院長。17歳と15歳の娘には「たくましく自分らしく育って欲しい」。
★自ら実践 ホルモンバランスを整えるために、40代になってから低用量ピルを飲み始めた。
★今年のテーマ 「毎日、小さな楽しみを重ねる」。飼い犬のミニチュアダックスフントの散歩や、友だちとのバーベキューを楽しみたい。
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