人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

楽器と身体―市民社会における女性の音楽活動

BOOKアサヒコム | 朝日の紙面から


フライア ホフマン[著]阪井葉子:玉川裕子[訳]
出版社:春秋社
価格:5,250円(税込)


--------------------------------------------------------------------------------
楽器と身体―市民社会における女性の音楽活動 フライア・ホフマン著
音大ピアノ科に女子学生が多いわけ

本紙掲載2005年02月27日
 一七五〇年から一八五〇年にかけて、オーストリアやドイツの市民階級における女性音楽家の活動とその受け入れ状況を、豊富な資料で検証した本である。

 アンネ・ゾフィー・ムター、五島みどり、チョン・キョンファ、庄司紗矢香。世界で活躍する女性ヴァイオリニストの名前はすぐ浮かんでくる。オーケストラでも、多くの女性奏者が活躍している。

 でも、当時のドイツ文化圏では、女性がヴァイオリンを弾くことはタブー視されていたそうなのだ。「暴力的で急な動きを要求する」楽器が「女性が守るべき立ち居振舞(ふるま)い」にふさわしくないから。そもそも女性の身体に似せてつくられている弦楽器を女性が弾くのは、同性愛を連想させるということもあったらしい。

 かわりに奨励されたのがピアノで、十九世紀前半にコンサートに出演した女性器楽奏者のうち、九割はピアノを弾いていた。といっても、女性は職業をもつべきではないとされていたころだから、彼女たちの多くはアマチュアだった。

 後半では、さまざまな社会的規範にもめげず、果敢に職業演奏家を目指した女性たちのエピソードが紹介される。

 乗馬でも横座りしなければならなかった時代、一八四五年にデビューしたチェリスト、リザ・クリスティアニは、批評家たちの好奇の目にさらされながらドイツ各地を演奏旅行した。カロリーネ・シュライヒャーも、「口の形がゆがむから」と封印されていたクラリネットに打ち込み、四十年のキャリアを築いた。彼女たちの勇気がジャクリーヌ・デュプレやザビーネ・マイヤーを生んだのだ。

 私が思いをはせるのは、日本のピアノ事情である。音大のピアノ科は女子学生で占められているが、プロになる確率は低い。ソリストはそんなにいらないし、ピアノはオーケストラにはないからだ。

 息子が音大に行くことは反対する親も娘には許す。就職できなくても結婚すればよい、結婚できなくても家でピアノを教えればよいと考えるからだろう(少子化で、この道も危うくなりつつあるが)。事情は二世紀前のドイツ文化圏とあんまり変わっていないかもしれない。

 [評者]青柳いづみこ(ピアニスト・文筆家)

   *

 阪井葉子・玉川裕子訳、春秋社・495ページ/Freia Hoffmann 独オルデンブルク大教授。専攻は音楽学。
by miya-neta | 2005-03-04 13:14 | 女 性