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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

人工筋肉使用のロボットアーム、腕相撲大会で善戦

Wired News - 人工筋肉使用のロボットアーム、腕相撲大会で善戦 - : Hotwired


2005年3月9日 2:00am PT
Randy Dotinga


 サンディエゴ発――6年前、米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所の研究者、ヨセフ・バー=コーエン博士は科学界にこんな課題を出した。アーム・レスリングの試合で人間に勝てる人工腕を開発せよというのだ。ただし条件がある。このロボットアームには柔軟性の高い樹脂素材を用い、電気的な刺激によって制御しなければならない。つまり、モーターを使用してはいけないのだ。

 7日(米国時間)、テレビカメラが列をなし、何百人もの観客が見守る前で、3つの研究グループがバー=コーエン博士の課題に挑戦し――そして敗北した。あるチームのロボットアームは、なすすべもなく倒されたようだし、他の2チームのロボットアームも、17歳の女子高生にあっさり負けてしまった。

 これらのロボットアームは、動作したとはいえ、米ESPNテレビで放映されるアーム・レスリング大会に向けて十分に準備を整えてきたとは言えなかった。あるチームのものは危険が予測される塩酸の化学反応を利用していたし、別のチームは強い電流の力を借りていた。

 それでも、報道陣の大半が立ち去った光工学国際学会の『知的構造/非破壊評価(NDE)』カンファレンス会場で見かけたバー=コーエン博士は、興奮冷めやらぬ様子だった。同博士は、自分の出したアーム・レスリングの課題に挑戦する者が20年以内に現れるとは、予想だにしていなかったのだ。ところが今回、あるチームの人工腕は女子高生との対決で30秒近く持ちこたえて健闘した。「これは大きな前進だ。まだ難しい課題はあるが」と、バー=コーエン博士は語る。

 この挑戦が成功すれば、ロボットはこれまでのような、大きくてゴツゴツしたモーター駆動の装置――自動車の組み立て工程で使われているようなロボットアームを思い浮かべてほしい――ではなくなり、しなやかで屈強な、モーターに頼らないマシンへと変貌する。すなわち、より人間に近くなるのだ。

 この技術を提唱してたゆまぬ努力を続けるバー=コーエン博士は、「将来はロボット犬も、機械のような歩き方ではなく、犬のような歩き方をするようになるはずだ。あるいは、火星の上を走るチーター型ロボットが登場するかもしれない――地表をゆっくり転がるのでなく、われわれと同様に脚を使って山を登ったりもするロボットだ」と語る。

 人間や動物には、言うまでもなく、ドライブ・シャフトやギアや車輪は付いていない。バー=コーエン博士らは、この人工筋肉が義肢に大変革を起こし、障害のある人がもっと容易に自分の手足を動かせるようになると期待している。

 だが現時点では、バー=コーエン博士の夢の筋肉――すべて電場応答性高分子(EAP)という樹脂でできている――は、まだかなり原始的だ。課題となるのはこの樹脂を、ちょうど人間の筋肉と同じように、電気的な信号のわずかな刺激だけで曲げたり動かしたりすることだ。この筋肉に、生きた人体と同じような強さを与えることは、さらに難しい課題となる。

 研究者らはこれまでにも、EAP技術を用いてロボット魚や古典的なマシンをいくつか開発してきたが、人体の部位に似たマシンはまだ構想の段階にとどまっている。

 鳴り物入りで開催された7日のアーム・レスリングの試合では、どの出場チームも「人間の手に対抗して曲がる、とてもシンプルなアーム」を作ろうとしていた、とバー=コーエン博士は説明する。「目を引くような機能は何もない。だが、われわれはいずれ要求項目を増やしていくつもりだ」

 この日1番の成績を収めたロボットアームは、ニューメキシコ州の米エンバイロンメンタル・ロボッツ社が製作したものだ。白くて、先端に向かって細くなる、ちょっとボウリングのピンのような形をしている。地元サンディエゴの高校に通うパンナ・フェルゼンさんが24秒かけて倒したこのロボットは、2つの人工筋肉に接続された電源のリード線を介して制御されていた。

 フェルゼンさんが2番目の「アーム」を打ち負かすのに要した時間はもっと短かった。スイスの研究機関が設計したこのロボットは、人工腕というよりも、単に小さな棒状の装置の一方の先に球体を付けただけに見える。このアーム部分は、総重量約20キロの奇妙な装置の一部で、高電圧の電源を使用していたので、フェルゼンさんは保護グローブを着けて対戦することになった。

 最後のチームはバージニア工科大学で工学を専攻する学生たちだ。このチームの装置は、ゲル状ファイバーを満たした複数の筒を、釣り糸でグラスファイバー製のアームにつないでいる。筒の中のファイバーを塩酸と反応させ、ファイバーに生じた引っぱる力でアームを動かすというものだが、うまく動作しなかった。どうやら、反応の進行が遅すぎたようだ。

 4年生のスティーブン・デソさんは、このアームが過去に誰も負かしたことがないのを認めた。「テストにかけられる時間はほとんどなかった。安全性を重視していたから」(フェルゼンさんはこの短い対戦の間、安全ゴーグルを着用していた)。それでも、学生たちはわずか6ヵ月でプロジェクトを完成させたことに満足していた。「自分たちの目標は達成できた」とデソさんは語った。

 むろん、多くの点で、今回のアーム・レスリングの試合は公正な戦いとは言えない。

 まず、人工腕は本物のような柔軟性を備えていない。また、21ものタイトルを持つプロのアーム・レスラーのアレン・フィッシャー氏は、この競技が単に腕と肩の力だけで勝てるものではないことを指摘する。「アーム・レスリングは全身を使って」するもので、脚や背中、胸などの筋肉が関係してくると、フィッシャー氏は説明する。

 それでも、フィッシャー氏は今回のロボットアームに感銘を受けたと語り、これが完成すれば「多くの人の役に立つだろう」と予測を述べた。

 人工筋肉は映画制作者に恩恵をもたらすかもしれない。映画『A.I.』や『ジュラシック・パーク』の特殊効果に参加したリチャード・ランドン氏は、技術の進歩がこの業界に革命を起こす可能性があると語る。人間型の模造キャラクター――あるいは、『ジュラシック・パーク』に登場したベロキラプトルのような恐竜――にモーターを使う必要がなくなって、より自然に見えるはずだ。

 だが、現時点では「まだとてもその段階ではなさそうだ」とランドン氏は述べた。


[日本語版:江藤千夏/高森郁哉]
by miya-neta | 2005-03-10 20:33 | 科学/技術