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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

ネット時代のジャーナリズム~韓国 危機に揺らぐ新聞

MSN-Mainichi INTERACTIVE カバーストーリー


 下川正晴・韓国外国語大学言論情報学部客員教授、毎日新聞編集局編集委員・元ソウル特派員


 最近、韓国外国語大学日本語学科で授業することがあった。テーマは「メディアと政治」。ちょうどいいタイミングなので、受講生(学部の3、4年生)50人を相手に、簡単な調査をしてみることにした。

 「おもにどんなメディアから情報を入手していますか? 次のうちから選んで、答えてください。1.新聞、2.テレビ、3.インターネット」

 こんな質問をしたのは、最近の韓国の大学生は、ほとんど新聞を読まないのではないか、と予測していたからだ。

 実際、この朝、大学に通学途中の地下鉄の中でも、「朝鮮日報」や「東亜日報」といった一般紙を読んでいる乗客は、ほとんど見当たらなかった。新聞を読んでいたとしても、それは地下鉄入り口で無料で配布されているタブロイド版の無料紙(数紙が発行されている)であったり、せいぜいスポーツ新聞だった。

 調査の結果は、以下のようなものであった。

1.新聞 ゼロ
2.テレビ 13人
3.インターネット 38人
4.無回答 9人

 「新聞=ゼロ」という結果には、さすがに僕も驚いた。韓国に「IT大国」との形容詞がつくようになって久しい。インターネット大国であるという。その隆盛のあおりで、韓国の新聞部数がどんどん減っているという話は、知り合いの新聞社幹部から聞いていたが、まさか、ここまで事態が進んでいるとは思わなかったのだ。

 日本の学生の場合はどうなのか?

 手元にこれといった資料がないので、ネットで検索してみると、筑波大学新聞が調べた結果が見つかった。2003年時点の数値だ。それによると、同大生のうち「新聞をなんらかの形で読んでいる学生は73・1%、定期購読しているのは39・7%」だった。韓国と比べると、まだまだ「雲泥の差」があると言っていい。しかし、「インターネットで新聞を読んでいる」と答えた学生も20%を超えていた。今後、日本でも「新聞離れ」が進んでいくのは確実だ。

  *    *

 新刊本「メディア・ビッグバン、韓国が変わる」(3月30日初版発行)を読んでみた。著者のキム・テクファン氏は、中央日報のメディア担当記者である。

 新聞に関する章には「新聞の危機、知的能力の終末か」というショッキングな見出しがついていた。そこには驚くべきデータも載っていた。この4年間で韓国の読者の新聞閲読率、購読率がいずれも20%近く低下したというのだ。

 閲読率の場合、2000年12月に60%だったのが、2004年12月には43%に落ちた。購読率は57%から41%になった(ニールソンメディアリサーチ調べ)。これらは世帯別のデータだが、人口1000人あたりの購読者を主要国で比較すると、ノルウェー704・6人、日本635・5人、英国402・4人、ドイツ332・8人、米国268・2人、韓国200人(世界新聞協会調べ。上記本に掲載されているデータだが、調査年度が不明である)という。韓国の落ち込みが目立っているというしかない。

 信頼度はどうか? ここでも新聞の不振が目立つ。

 韓国言論財団が調査したところによると、マスメディアへの信頼度は5点満点で、テレビ3・29、ラジオ3・28、インターネット3・22、新聞3・05、雑誌2・79という順番である(調査年度は不明)という。なんとも情けない数字だ。

 日本の場合、「ひと言で言って、現在の新聞は信頼できると思う」という項目に、日本人の74・0%が「YES」と答えている(日本新聞協会、1999年調べ)。

 朝鮮日報の方相薫社長は「新聞市場の萎縮よりも、さらに大きな問題は、新聞が信頼を失ったということだ」と語っているそうだ(上記本101ページ)。

 毎日新聞は「朝鮮日報」と提携関係にある。毎日新聞ソウル支局は朝鮮日報本社内にあり、逆に朝鮮日報東京支局は、毎日新聞東京本社内にある。40年前の日韓国交正常化以来の仲だから、お互いに知人が多い。僕もいろいろお世話になってきた。方相薫社長にも何度もお目にかかったことがある。

 だから、10年ぶりに生活するようになった韓国で、このような「新聞の衰退」を目撃せざるを得ないのは、同業者としてはかなりの衝撃なのである。

  *    *

 韓国で昨年末、「新聞法」と「言論仲裁法」という二つの法律が国会を通過した(正式には「新聞などの自由と機能保障に関する法律)」「言論仲裁および被害救済などに関する法律」)。

 この二法の施行令制定に関する公聴会が、先だって韓国プレスセンターで開かれたので、のぞいてみた。文化観光部と韓国言論財団の主催である。10人近くの指定討論者が出席していたが、僕が驚いたのは、朝鮮、中央、東亜といった主要紙の関係者がひとりもいなかったことだ。

 これで「公正な公聴会」といえるのだろうか、と疑問になったのもいうまでもない。この2つの新聞関係の法律は、日本では意外に知られていないので、少し言及しておいたほうがいいだろう。

 「月刊朝鮮」2月号に、鄭晋錫・韓国外国語大学名誉教授が「新聞法は反民主の悪法だ」と題する、新聞法批判の文章を書いている。鄭教授は韓国のマスメディア史研究の第一人者である。

 それによると、韓国新聞法の骨格は「市場支配的事業者」「新聞発展委員会」「新聞流通院」という3つの新しい制度の導入にある。以下、要点部分のみ、引用する(鄭論文の全文翻訳は、雑誌「現代コリア」5月号に掲載)。

 <「市場支配的事業者」規制とは、発行部数が多い新聞に課徴金を課し経営に圧迫を加えることによって、財政的な規制を加えるという制度だ。>

 <ひとつの新聞の発行部数が全国日刊紙部数の占有率の30%を越えたり、3つの新聞社で60%を超過すれば「市場支配的事業者」と見なされる。具体的には、3大メジャー新聞である朝鮮日報、中央日報、東亜日報の発行部数が全国新聞発行部数の60%を超えれば、課徴金を払わせるという仕組みである。>

 <「新聞発展委員会」を設立し、新聞発展基金を運用するということは、どういうことなのか。読者の支持を受けて多くの部数を発行する新聞は、一定限度以上に発行部数が増えないように規制する一方、読者が無視する新聞は「新聞振興院」によって支援するということだ。>

 <「言論仲裁法」は既存の言論仲裁委員会の権限を強化し、被害者でない市民団体など第三者も、言論仲裁委に是正勧告を申請できるなど、言論に対する外部の干渉が許される素地を作った。>

  *    *

 韓国の新聞は、内部からの侵食(発行部数の減少、社会的信頼度の低下など)に加えて、外部的な圧力(新聞法、言論仲裁法)によって、大きな危機局面にあるというべきだろう。

 このような「新聞の危機」が、韓国マスコミの対日報道に、どのような影響を与えているのだろうか?

 「竹島」「歴史教科書」をめぐる、この2カ月近くの見聞からすると、かなりの影響が見られる、というのが僕の率直な印象だが、正確に立証するには、まだ資料が足らない。

 次回は、韓国インターネットのポータルサイトをめぐる状況についても報告したい。「韓国メディアの新権力」として、台頭が著しいが、多くの問題点を抱えているのが事実である。(4月11日)

筑波大学新聞の調査結果

韓国の新聞法

ソウル発!! 人&風(サラム&パラム)

2005年4月12日
by miya-neta | 2005-04-15 22:30 | メディア