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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

問題の歴史教科書を真っ当な学者が徹底批判


 〔日刊ゲンダイ 2005/04/28〕


 中国、韓国で吹き荒れた「反日デモ」が依然、尾を引いている。日本人ツアー客だけじゃなく、中・韓から日本に向かうツアーもキャンセルが続出。GW期間中の旅行会社は悲鳴を上げている。
 それより何より、これだけ隣国に嫌われていることが世界中に知れ渡ったら、小泉首相が目指す「国連常任理事国入り」も絶望的だろう。

 今回、両国が怒りを爆発させた理由の一つは、日本の歴史認識だ。とりわけ「新しい歴史教科書」が、文科省の4年に1度の教科書検定に合格したことに猛反発している。
 新しい歴史教科書とは、「従来の歴史教科書は自虐史観に毒されている」とし、それに代わる教科書を作ろうと、97年に結成された「新しい歴史教科書をつくる会」が作成した中学校の教科書。01年に初めて検定を通過し、今回が2度目の検定だった。
 この教科書をめぐって日本の歴史学者62人が25日、「歴史の事実をゆがめる『教科書』に歴史教育をゆだねることはできない」と緊急声明を発表した。あまりにも都合よく歴史を解釈しているというのだ。

 「つくる会」の教科書とは、どんな内容なのか。この際、サラリーマンも知っておいた方がいい。
 「つくる会」の歴史教科書は、古代から近現代までアジア人の反感を買うような“ご都合史観”で貫かれている。実在しなかったことがハッキリしている「神武天皇の東征伝承」を持ち出すなど、史実を無視した記述も多い。

 最大の問題は、光と影が混在する日本の歴史の「光の部分」だけを都合よく解釈していることだ。731部隊、慰安婦、朝鮮半島での同化政策など「影」の部分からは意図的に目をそらしている。緊急声明に名前を連ねた茨城大名誉教授の荒井信一氏(歴史学)が言う。
 「『つくる会』の歴史観がとくに表れているのは、近代史についてです。象徴的なのは、ほかの教科書が『太平洋戦争』と記述しているのに、ただ1社だけ『大東亜戦争』と呼んでいること。大東亜戦争と書いた中学校教科書は、戦後初めてです。大東亜戦争は、当時の日本政府が『こ
れはアジア解放のための戦争だ』との意味を込めた言い方。『つくる会』が戦前のアジア侵略をどう見ているか分かります」

 実際「韓国併合」「南京虐殺」「日中戦争」などの記述はムチャクチャだ。
 「韓国併合」は〈日本の安全と満州の権益を防衛するために必要〉との当時の日本側の都合だけを一方的に書いている。韓国併合に対する抵抗運動にはほとんど触れず、強制連行も「連れてこられた」と曖昧な表現でボカしている。これでは韓国民にヒドイことをしたというニュアンスは、まったく伝わってこない。
 「南京虐殺」にいたっては〈この事件の実態については資料の上で疑問点も出され、さまざま見解があり、今日でも論争が続いている〉とわざわざ否定論を追記していた。

 その一方で、日本の植民地支配を賛美するような記載があちこちに出てくる。同じく名前を連ねた一橋大名誉教授の安丸良夫氏(日本思想史)が言う。
 「よっぽど日本の侵略行為を正当化したいのか、日本が韓国の鉄道を整備したとか、台湾の開発も行ったとか、日本の重工業の進出などにより満州が経済成長を遂げたことが、ことさら強調されています」
 台湾については一切加害に触れずじまい。「台湾の開発に力をつくした八田與一(台湾総督府の日本人技師)」というコラムが大きく扱われている。
 「囲みコラムの『アジアの人々を奮い立たせた日本の行動』では、『マレー半島を進撃してゆく日本軍に、歓呼の声をあげました』と書き、『日本を解放軍としてむかえたインドネシアの人々』でも『日本軍がオランダ軍を破り、進駐すると、人々は道ばたに集まり、歓呼の声をあげてむかえた。日本はオランダを追放してくれた解放軍だった』と極端な解釈を載せています」(安丸良夫氏=前出)

 歴史教科書だけでなく、「つくる会」の「新しい公民教科書」も相当なものだ。
「『基本的人権の尊重』の項で、『国防の義務』と題した資料を掲載し、ドイツ、中国、スイスの3カ国を例に『これらの国の憲法では国民の崇高な義務として国防の義務が定められている』とイラスト付きで強調している」(62人の中心メンバーである石山久男氏=都立大講師)
 日本国憲法にもない国防の義務をしっかり教育したいのだろう。こんな教科書がよくぞ、検定を通ったものだ。中学生の教科書としては、やはり問題が多すぎる。

 それにしても「つくる会」の狙いは一体、何なのか。アジア諸国が一斉に反発することを承知しながら、ここまで偏った教科書に執着するのは尋常じゃない。
 評論家の佐高信氏は、本紙に「戦争責任を広くとらえようとする歴史観が『自虐史観』なら、つくる会は『自慢史観』だ」と語っていた。さらに「サンデー毎日」で、「つくる会」のメンバーをこう揶揄している。
 「いつも日本が偉いと自慢ばかり言っているのは、本当は日本に自信がないからなんだ。他人があまり『偉い』と言ってくれないから、自分で言ってしまおうとむきになる。(略)自慢を少しおさえて、自虐ができるくらいの自信をもてるようになってもらいたい」

 これは言い得て妙だ。自信のなさの裏返しとみれば納得である。もちろん、彼らの狙いはそれだけじゃない。隠れた本当の狙いがあるのは明らかだ。
 「『つくる会』の真の狙いは、国のためなら喜んで戦争に参加する子供を育てることでしょう。新しい歴史教科書には、戦争の悲惨さがほとんど書かれていない。沖縄のひめゆり部隊や集団自決の記述は皆無。広島、長崎の原爆被害もたった一言触れているだけです。その一方で『日本
の将兵は敢闘精神を発揮してよく戦った』などと戦争を美談に仕立てている。これでは、子供たちに戦争の悲惨さは伝わらない。それどころか、戦争を肯定しかねません。それと同時に、天皇中心を強調し、改憲を訴えている。こうなると狙いは明らかでしょう。ズバリ、日本を戦前のような国にすることです」(立正大教授・金子勝氏=憲法)

 衣の下に鎧(よろい)どころか、血刀がムキ出しなのである。心ある歴史学者62人が、新しい歴史教科書が教室に持ち込まれることを憂慮するのも、当然だろう。
by miya-neta | 2005-04-28 12:00 | 教 育