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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

脱スパルタの高校野球 メンタルトレーニング<2>

MSN-Mainichi INTERACTIVE トピックス




 ◇目標を見つけて

 光明学園野球部の吉川直希主将(3年)は、毎晩、自分の心を見つめる時間を持つ。それは、本村幸雄監督(34)が「選手が心を整理できるように」と3年前に作った特別な日誌があるからだ。

 日誌の特徴は、「心・技・体」に項目が分かれていること。「技」は技術の向上を、「体」は体作りのことを書く。そして「心」には、練習にのぞんだ気持ちを書く。集中したか、楽しんだか、と振り返るうちに吉川主将の心が解きほぐされていく。

 「僕は、エラーすると気持ちを引きずっているんだ」。日誌を読み返していた吉川主将は、はたと気づいた。試合や練習でエラーした日の「心」には「気持ちが落ちていった」と元気のない言葉が並んでいた。一度エラーすると、失敗で頭がいっぱいになり、不安がまたエラーを呼ぶ。マイナス思考は、打撃不振にもつながっていた。日誌には、失敗を恐れる自分の弱さが映し出されていた。

 そこで吉川主将はエラー後の気持ちに注意した。失敗のあとは反省に徹するのではない。「弱気になるな。失敗を頭から追い出せ」と、プラス思考を心がけた。そんな心の変化が日誌につづられていった。

「心・技・体」の項目に分かれた日誌 吉川主将が心を試すときが来た。7月14日、神奈川県大会初戦。光明ナインは公式戦初出場の選手を起用した。内野はお互いの動きを気にかけ、打者に集中できずキョロキョロしている。「内野は大丈夫か」と悪い考えがよぎると、二回裏1死二塁、自ら内野安打を送球ミス。吉川主将のかけ声に元気がなくなる。不安は内野陣に伝わり、今度は一塁手もエラーし同点に。いやな空気が流れた。

 その時、吉川主将は日誌の言葉を思い出した。「弱気になるな」。我を見失う前に、自分へ黄色信号を出した。そして三回表の攻撃、「ここで打って、流れを変えよう」と言いかせると、投手に集中。すると球筋が見えた。「この投手はインコースが甘い」。狙い球を全力で振り切ると、打球はレフトスタンドへ吸い込まれていった。流れが変わった。11ー5の快勝だった。

 吉川主将は「日誌の効果がありましたよ。自分の弱点が分かるから、気持ちの切り替えを意識できた」と照れ笑い。ホールランボールを力強くにぎりしめた。

 ◇監督が変わった

 本村監督は、選手が生還すると、こぼれるような笑顔で一番にベンチを飛び出し迎え入れる。その笑顔見たさで球場に通うファンがいるほどだ。しかし3年前までの顔は、試合に負ければ罰を課す鬼監督だった。

 転機は就任2年目の冬。スパルタ方式に耐えかねた1年生が、「うちの部には科学的なメンタル強化が必要です」と、高妻容一・東海大助教授のメンタルトレーニングの公開講座に、本村監督を引っ張っていった。

本村監督が作った日誌を通じ、選手は心と向かい合い、本村監督は選手の心を知ることができる お客さん気分でいた本村監督に向かい、高妻助教授は「指導者が選手をつぶしている」とぴしゃり。選手に練習を押し付けるやり方は「逆さになっているコップに水を注ぐようなもの」と言われた。俺のことだ--。

 とにかく信じてみようと、メントレの導入を決めた。選手の自主性を伸ばし目標を見つけさせようと、最初に始めたのが「心・技・体」の日誌だった。本音では、「俺はウサギ跳びと1000本ノックで根性を鍛えたのに」と思いつつも。

 そんな時、日誌にこんな言葉が綴られ返ってきた。「練習が楽しくなった」「明日は妥協しない。ぺースを落とさない」「活躍するイメージで練習したらその通りにできた」。選手の言葉は、本村監督を変えていった。

 初めは義務だった日誌も、今年4月からは選手の自由に任せた。「無理にやらせたら、本末転倒でスパルタになる」と言う。メントレを始めて2年目。小さく縮こまっていた選手たちが、監督の冗談に自然に笑うようになった。高妻助教授も「監督の意識が変わって、光明学園は化けた」驚かされるほどだ。

 この春から、食の細い選手のためにと電子ジャーを買ってきて、帰宅前におにぎりを食べさせている。「腹ペコで家に帰る子の体が心配でね」と話す横顔には、スパルタ監督の面影はもう見えない。【野口美恵】

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高妻容一・東海大助教授◇高妻容一・東海大助教授

1981年から、計8年間渡米してメンタルトレーニングを学んだ、日本の第一人者。85年、日本のスポーツ選手もメンタル強化が必要だと訴え、JOCでプロジェクトを開始したが、「巨人の星」などスパルタが浸透していた日本には科学的トレーニングが受け入れられなかった。一足早く、マリナーズの長谷川滋利選手らが、高妻助教授の訳本「大リーグのメンタルトレーニング(ケン・ラピザ著)」を愛用していた。

 94年、「メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会」をスタートさせ、現在では12都市で週1~月1回の研究会を開催している。これまでに、五輪チームやJリーグ、高校野球などで指導。光明学園には、高妻助教授のスタッフが週2回のサポートを行っている。1955年宮崎県生まれ。空手6段。

メントレ・応用スポーツ心理学研究会
http://www.mental-tr.com/mental/

ウェブリーグ(高妻助教授を紹介)
http://www.webleague.net/wcoach/wcoach.php3?teachid=1

 2005年7月26日
by miya-neta | 2005-08-08 20:00