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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

記者の目:鳥インフルエンザワクチン否定に反論=小島正美(生活家庭部)

MSN-Mainichi INTERACTIVE 記者の目


 ◇根拠薄い、強毒性への変異--有益性も国は広報を

 西欧で鳥インフルエンザが猛威を振るい始めた。人に感染するウイルスも見つかり、感染の拡大防止策として、鳥へのワクチン使用論議が出てきそうな状況になってきた。10月6日の本欄で望月靖祥記者は「人間の健康に不安が残る」との理由でワクチン接種に否定的な意見を述べたが、ワクチンへの誤解があるようなので再反論したい。

 望月記者の主張は、これまでの農水省の考え方に沿ったものだ。主なポイントを整理すると(1)ウイルスは鶏の間で感染を繰り返すうちに強毒性に変異するが、現状では殺処分で対応できる(2)動物衛生研究所の試験でワクチンを接種して5カ月後、ほとんどの鶏が感染し、一部は死んだ(3)海外の接種例は失敗例が多い--などだ。

 まず強調したいのは、今回の茨城のような弱毒性ウイルスが強毒性に変異する確率はウイルスの量に比例するということだ。ウイルスの増殖量を減らせば、変異のリスクは減る。

 例えば、メキシコでは95年から、不活化ウイルス(生きたウイルスではない)をワクチンとして使っているが、弱毒性が強毒性に変異した例はなく、むしろ強毒性への変異を抑えてきた。もちろんメキシコでのワクチン使用例のデータには不透明な部分もあり成功例ばかりではない。パキスタンも同様だ。だからといって、ワクチン接種を否定する根拠にはならない。要は政府のしっかりした管理のもとで正しく使うかどうかだ。

 農水省は「接種試験で感染を完全に阻止できなかった」と言うが、これも否定材料にはならない。そもそもワクチンの効力というものは時間とともに低くなる。動物衛生研究所の感染試験は大量のウイルスを感染させているため、感染を完全に抑えられないとしても、少しも不思議ではない。効力が低いなら、複数回の接種やワクチンの質の向上で対処できる。

 農水省は「殺処分がベスト」と言っているが、茨城の場合、殺処分に約3カ月もかかった。米国やイタリア、チリなど過去の例を見ると、ウイルスが変異するのに要する時間は2週間~14カ月とかなり幅がある。茨城では運良く沈静化するかもしれないが、殺処分しているうちに感染が拡大する可能性もある。

 また、殺処分自体にも人への感染リスクがある。オランダでは防疫作業にかかわった人たち約80人が感染し、1人の獣医が死んだ。昨年の京都府の発生でも保健所の職員や農場の従業員計5人が感染した。幸い発症せず、家族などへの感染はなかったが、殺処分だからリスクがないわけではない。

 不思議なのは「殺処分で対応できる」と言ってきた農水省が8月下旬、ウインドーレス(密閉型)鶏舎の約200万羽については「ウイルスが拡散するリスクは低い」として、殺処分しない方針に変えたことだ。

 ウインドーレス鶏舎とはいえ、人の出入りはあるし、換気扇を通じてウイルスは外に出る。ウイルス検査をするにしても、殺処分もワクチン接種もせず、放置する方がよほどウイルスの変異を促すのではないか。ウイルスは鶏のふんに多く含まれるが、ふんは焼却されていない。ふんから二次感染が起きたらどうするのか。

 ワクチンの実情や養鶏の現場に詳しい「ピーピーキューシー研究所」代表取締役の加藤宏光・獣医師は「未発生の所で予防的にワクチンを使うにはハードルが多い」と前置きした上で、「茨城の約400万羽の感染は、政府が主張してきたワクチンの使用条件を満たすほどの大発生だ。初期の段階で地域限定的にワクチンを使っていれば、ウインドーレス鶏舎にいる抗体陽性の鶏が排出するウイルスを減らすことができたし、ワクチン使用の教訓を得ることもできた」とワクチンが二次感染防止になりえたと話す。

 9月20日に本欄に書いた「感染相次ぐ鳥インフルエンザ」で読者から「怖いワクチンをなぜ認めるのか」という便りをいただいた。農水省がワクチンのマイナス面を強調し過ぎた影響もあるのではないか。重要なのはワクチン接種が人への感染リスクを減らすかどうかの疫学的な検証だ。

 農水省は「感染を完全には防げない」と言いながら、今、国産ワクチンの開発を進めている。西欧では動物福祉の視点から鶏などの家畜を殺さずに済む方法も検討している。日本でもいずれワクチン接種を試す機会が出てくるだろう。そのときのためにも、ワクチンのプラス面も国民にきちんと伝えておく方が有益だと思う。

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毎日新聞 2005年11月3日 東京朝刊
by miya-neta | 2005-11-03 10:37 | 科学/技術