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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

理系白書’05:第3部 流動化の時代/5 「動くほど損」する日本

MSN-Mainichi INTERACTIVE 理系白書


 <壊そう、文理の壁>

 ◇カネの苦労、ついて回る研究の自由

 「退職金はたしか、数百万円でした」

 新素材「カーボンナノチューブ」の発見者でNEC特別主席研究員の飯島澄男さん(66)は、60歳で定年を迎えた時、退職金を受け取った。少ないのは、47歳で入社し、勤続年数が短いためだ。

 飯島さんの人生はまさに「流動」だ。電気通信大を卒業した後、東北大で博士号を取得。助手になるとすぐに米アリゾナ州立大へ留学。英ケンブリッジ大にも客員研究員として2年間赴任した。帰国後は新技術事業団(当時)のプロジェクト研究に参画し、さらにNECに移ってノーベル賞級の発見をした。これまで籍を置いた研究拠点は、兼務を含めると8カ所に上る。

 日本のほとんどの企業では、業績より在職年数が、退職金の額を左右する。厚生労働省の調査(03年)によると、大卒後、一企業に勤め続けて定年を迎えた場合の平均額は大企業で2759万円。飯島さんの「数百万円」からは、「動けば損する日本」の構図が垣間見える。

   ■   ■

 飯島さんは「研究者として成功するには、動けるだけ動いたほうがいい」と考えている。米国で高性能の電子顕微鏡を開発し、金属原子を世界で初めて観察することに成功した。「素晴らしい研究者に出会い、恩師も4人いる。待っているだけでは実現できなかった」

 一方で、不安とも常に背中合わせだった。米国にいる間は東北大の助手職を「休職」扱いにして失業に備えた。帰国後のポストは任期付き。「やりたい仕事はできたが、四六時中、尻に火がついた状態だった。動くたびに年金や社会保険が途切れ、退職金に反映される勤続年数も途切れた」

 NECに移った理由は、「魅力的な装置と材料があったし、国立大へ戻るより、収入が増えるという思いもあった」と明かす。「米国では、動くと『おめでとう』と言われた。日本は一つの道を決めると、一生同じ道を進むから、動くほど生活面で『損』をする傾向が強い。動く人に対応した制度の整備が必要だ」と訴える。

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 現在、流動化の渦中にある若手研究者たちにも、「カネの苦労」はついて回る。

 公的研究所の研究員(35)は、大学院時代に受けた奨学金計600万円の返済が悩みの種だ。返済は、今の仕事の任期が終わる来年春まで猶予されている。しかし春に国内での研究職に就かなければ、返済義務が生まれる。「今後の研究のためには海外に出たいが、600万円が足かせになっています」

 私立大の教員(39)は4年前、家を買った。今は両親が住み、月々のローンは両親が払っている。年2回のボーナス払い計30万円は自分で払ってきたが、任期付きの今のポストに移ると同時に、ボーナスがなくなった。「前職の退職金やアルバイト料でなんとか補っていますが、ローンはあと30年」。購入時に任期付きだと、銀行が渋ってローンを組めない場合もあるという。

 政府は、来年度から5年間の「第3期科学技術基本計画」で、研究を阻害する要因に「異動に伴う年金・退職金の扱い」を盛り込み、改善に取り掛かる。

 年金については今年10月、転職先にそれまで積み立てた分を持って行けるようになった。しかし退職金は企業間のやりとりが難しく、今後の検討課題だ。

 日本学術会議の黒川清会長は「日本が歴史的に内向きに生きてきたことが原因だ。霞が関を頂点とする階層意識が社会全体に広がり、序列の外に飛び出すことを歓迎しない社会になった」という。

 黒川さん自身も東京大医学部卒業後、日本で二つ、米国で三つの大学を渡り歩いた。「今の日本の学問社会の序列の中からは、教授のクローンしか生まれない。外国の著名な大学は、トップに優秀な外国人や女性を招いたり、世界中の優秀な学生や教員に大学を開放するなど、変革に余念がない。それに引き換え、日本には開放の意欲が見えない」と指摘する。【永山悦子、元村有希子】

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毎日新聞 2005年11月30日 東京朝刊
by miya-neta | 2005-11-30 07:42 | 教 育