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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

★ おいしいから罰金? ニューヨーク・タイムズ 社 説・論 説

U.S. Frontline News, Inc.


FrontLine Daily 2006-05-01  No.1848

(ガブリエル・ハミルトン論説=Pruneオーナーシェフ、4月27日付)1990年代まで、ニューヨーク市公衆衛生局は飲食店の衛生検査を徹底しないことで有名だった。ぞんざいな検査がほぼ1年おきにあり、検査前にはしばしば店に電話で連絡があった。

 ジュリアーニ時代に状況が一変した。信号無視も、タイムズスクェアの「のぞきストリップ」も、レストランでのパン用バターの使い回しもすべて禁じられ、検査は抜き打ちが当たり前となった。無料の食事を楽しんで「検査」を終える検査官ではなく、コンピュータを抱えた公衆衛生学の学位を持つ検査官が来るようになった。

 同時にレストランの従業員も変わった。私が見習いコックだった1982年当時は、レストランの台所は前科者やチェーン・スモーカーであふれていた。今の料理人たちは、食品衛生検査官と同様、大学教育を受けた科学の学位をもつ人々だ。また今の料理人は、常に新しい材料や生産者との親密な関係、新しい調理法の開発に積極的である。

 最近、市内の料理人の間ではやっているのは、味付けされ真空パックされた材料をようやく沸騰している程度の湯で調理するという、フランスでスー・ビドと呼ばれる真空調理法である。比較的低温で長時間かけて調理することで素材本来の味が濃厚に保たれ、栄養を損なわずしかも滑らかな舌触りが得られる。

 ところが公衆衛生局はこれを許さない。食中毒の報告は1件もないが、雑誌や新聞でこの新しい調理法を知った食品検査官は、多くのレストランでこのやり方を廃止させた。料理人らは検査官の目の前で真空パックの食材を捨てさせられ、罰金を科され、真空調理に必要な設備の使用禁止を言い渡された。もし衛生学者の判断だけに頼るなら、米国にはチーズも自然発酵のパンも、納屋に110日間つるすハムもなくなってしまう。

 私は衛生基準に反対しているわけではない。まっとうな料理人なら、おのずから衛生を徹底するものだ。われわれは食べ物がいかにおいしく、満足を与えられるかを示すためにこの商売をしているのだ。清潔と衛生はその満足の土台である。そしてわれわれは特に、農薬や遺伝子操作技術が使われていない、あるいは発がん物質を添加されていない純粋な材料に興味がある。料理人は危険な食物を客に出したりしないのだ。

 最近は衛生局の基準違反に対する罰金も厳しい。1999年には調理人の手洗い場のペーパータオルが切れていても罰金はなかったと思うが、今や300ドルの罰金である。手袋をはめずにトーストにバターを塗っても300ドル以上の罰金だ。このくらい厳しく取り締まるべきレストランはある。あやしい鳥肉料理を1ドル95セントで提供し、良い食事や衛生のことなど考えもしない17歳の低賃金スタッフを雇うようなレストランである。

 しかしこういう店はスー・ビドなど知らない。検査官は味を無視した規則だけを考えるが、良い料理人はさまざまなことを考える。それはすべて顧客の健康と満足につながる。私だったら自分の食事は良い料理人に任せたい。
by miya-neta | 2006-04-29 14:33