奈良・民家火災 猛火、医師の父呆然 「ボン」爆発数回
2006年 06月 20日
住民、ホース放水空しく
20日早朝、奈良県田原本町で起きた民家火災。連絡を受け自宅に駆け付けた医師、吉川元祥さん(47)は、目の前にある無残な光景に言葉を失った。激しく燃えさかる炎は、近所の人たちもうらやむほど幸せだった吉川さん一家をあっという間にのみこんだ。火災現場から次々と見つかる遺体に、吉川さんの家族を知る近所の人たちは「あんなに仲の良い家族が…」と一様に肩を落としていた。
火の手が上がったのは木造2階建ての1階台所付近。「ボン」という爆発音が何度も響き、室内に黒い煙が充満した。火事に気付いた近所の住民らがホースで放水したが、2階まで突き抜けた炎の勢いは止まらない。何度も「吉川さん、吉川さん」と呼び掛けたが、返事はなかった。
近くの会社員、牧田泰治さん(54)は「救出しようと石を投げて窓を割ったが、熱くて中に入れなかった。水をかけ続けたが、火の勢いは衰えなかった」と悔しそうに話した。
近所の人によると、吉川さん一家は10年ほど前に転居してきた。妻、民香さん(38)は長女の優民ちゃん(5)が数年前に生まれたとき「やっと女の子ができた」とうれしそうに話していたという。
吉川さん一家は、休日になるとパラソル付きのキャンプ用テーブルなどをワンボックスカーに積んで、頻繁に郊外に出掛けるアウトドア派の生活ぶり。よく自宅の庭で、全員でバーベキューを楽しんでいる姿が見られたといい、近所の人たちは「幸せを絵に描いたような家族だった」と口をそろえる。
民香さんは子供の面倒をみるのが好きで、毎日のように近くの保育園まで長女の優民ちゃんを自分の車で送り迎えをしていた。優民ちゃんと二男の祥貴ちゃん(7)の手を引いて、近くの書店を訪れる姿もしばしば見られている。
また、長男(16)は、奈良県内の進学校として知られる私立高校に進学。午前7時ごろには自宅から最寄り駅まで自転車で行って通学。毎日、夜遅くまで勉強していた。休日の夕方には、自宅前の路地で元祥さんと一緒に剣道を練習していたといい、ゴムを巻き付けた練習用の人形を自宅から路地に持ち出し、一緒に「面」「胴」と威勢のよい声を出して竹刀を振り、熱心に打ち込んでいた。
民香さんは、5月21日に地元の阪手西自治会が実施した清掃活動に参加。こまめな性格で熱心にごみ拾いに協力する一方、近所の住民と顔を合わせると、自分から声をかける気さくな一面もみせていた。
阪手西自治会の宮本博覬会長(70)は「細やかな気配りのできる人柄でした。子供たちの面倒もよく見ていたはずなのに…」と残念そうに話していた。