霊魂だけが知っている [著]メアリー・ローチ
2006年 07月 23日
掲載]2006年07月23日
[評者]香山リカ(精神科医、帝塚山学院大学教授)
■科学の目で楽しく眺める“あの世”
「心霊」や「死後の世界」が大流行(はや)りだ。もちろん昔から、幽霊話や肝だめしが好きな人はたくさんいるが、昨今のスピリチュアルブームはもっとマジでホット。私のような一般精神科医のところにまで、「前世や守護霊を知りたい」という人がやって来る。「精神医学は一応、科学なんで」と言うと、「科学で証明されていないことはウソ、って言いたいんですか」と反論される。今や科学は心貧しき近代合理主義の象徴であり、「目に見えない豊かな世界」に比べてずっと分が悪いのだ。
本書の著者であるジャーナリストのメアリー・ローチは、頭の固い科学万能主義者ではないが、できればスピリチュアルな現象も科学で解明してもらってから信じたい、と思っている。そして行動力あふれる彼女は、輪廻(りんね)転生や臨死体験を研究する学者のもとを訪れたり霊媒学校に体験入学したりしてみる。十九世紀半ばに公開交霊術で荒稼ぎしていた三姉妹がいた、などスピリチュアリズムの歴史や基本的知識も満載だ。
そうやってアメリカからインドへ、イギリスへと出かけているうちに、著者は気づく。研究者といっても、その多くは中立的というよりかなり心霊現象に入れ込んでいる。自らを「疑い深い性格」と言う著者は、彼らの熱意に敬意を表しながらも「これだけのめり込んでいれば、たとえ否定材料が出てきても見えないのでは」と思ってしまう。そう、信じている人は科学的証明を待つまでもなく最初から信じているし、「インチキじゃないの」と思っている人は近づきもしない、というところに心霊研究や超心理学の不毛さの原因がある。
さて、さまざまな体験を通して著者は結局、「スピリチュアルの証拠」をつかめたのだろうか。その答えを明かすかわりに、あとがきから一部を紹介しよう。「たぶん、私は死後の生を信じるべきだろう。だって信じたほうが楽しいし、希望が持てるから」。つまり、本書は「楽しいスピリチュアリズムのススメ」なのだ。くれぐれも、「科学は悪だ」「私を救うのは霊魂だけ」とマジになりすぎないように。
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Mary Roach アメリカの科学ジャーナリスト。