【著者に聞きたい】渡辺淳一さん『愛の流刑地』
2006年 05月 28日
2006/05/28 11:00
『失楽園』から九年。より濃密に男女の性を突き詰めた、話題作が発表された。「『失楽園』では、心身ともに癒合した大人の純愛を描いた。今回はそこから一歩踏み込み、究極の愛の果てに鮮やかにあらわれてくる男と女の違いを、描きたかった」
売れない作家、村尾菊治と、三人の子供を持つ主婦、冬香の恋が描かれる。逢瀬を重ねて、急速にひかれあう二人。夫を生理的に受け付けない冬香は、菊治との出会いで感性が解放される。最初はリードしつつも冬香に圧倒される菊治の姿からは、男性特有の生理が浮かび上がる。「男女の根源的な違いはセックスである。妊娠、出産という将来の展望を持つ女性に対し、男性はたけだけしい性だが、行為が終わると急速に萎(な)えて閉塞(へいそく)する。そんなラジカルな違いが、これまで書かれてこなかった」
新聞連載中は過激な性描写が物議を醸したが、「ビデオや写真があふれている中で、小説を読んで興奮してくれた。活字にもまだ力があるという証し、それがうれしかったね」。
性愛を極めた冬香は死を求めるようになり、請われて菊治は思わず…。検事との攻防、冬香の夫からの激しい糾弾。舞台が法廷へ移ると、小説は新たな盛り上がりをみせる。「科学文明がどこまですすんでも、人間は人間。愛やエロスなど、論理や理性では包み込めない、もう一つの世界がある」。情念的な愛を法は裁けるのか-。すごみのある筆致で、論理と非論理の対立を描き出した。「『失楽園』以上のものは書けないのでは、といわれたことが刺激になった。愛と性というテーマを追い続けてここまできた」
八月から、京都・祇園を舞台にした連載小説が本紙で始まる。「華やかな世界の移ろいと、そこに耽溺(たんでき)する芸術家のエロスを描きたい」。人気作家の目には、すでに古都を歩く舞妓(まいこ)が映っている。上塚真由
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【プロフィル】渡辺淳一
わたなべ・じゅんいち 昭和8年、北海道生まれ。札幌医大卒。直木賞、菊池寛賞などを受賞。近著に『みんな大変』『渡辺淳一自選短篇コレクション』など。
<産経新聞>
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