山口高専生殺害:動機や真相は闇の中に 男子学生自殺で
2006年 09月 07日
学校の研究室で悲劇が起きた山口県周南市の徳山高専女子学生殺害事件は、殺人容疑で指名手配されていた同級生の男子学生(19)の自殺という最悪の結果となった。事件から10日。密室で起きた凶行の動機や真相はその口から語られることなく、闇の中に消えた。学生はあと3カ月で20歳。10代最後の夏の突然の暴走と行方をくらました末の死に、被害者の遺族や友人、教職員らは行き場のない怒りや悲しみに包まれた。
◆発見現場は…
男子学生の遺体が見つかった山口県下松市山田の雑木林は、山陽自動車道脇の道路から約100メートル上ったところにある。薄暗い山道沿いに小さな沢が流れている。この山道に青いバイクが止められていた。近くの住民によると、20日前に草を刈りに来たのが最後で、イノシシ狩りの猟師以外はめったに人は立ち入らないという。「ヘリコプターが飛んでいるので何事かと思った」。山を管理する同市生野屋の浅田良人さん(78)は、異臭の残る現場に立ちすくんだ。
男子学生の中学時代の同級生2人は、ニュース速報を聞いて駆けつけた。「よくしゃべる元気な友達だった。こんなことするやつじゃなかったのに……。せめて手を合わせてやりたい」。遺体発見現場を遠目に見ながらうつむいた。【安部拓輝】
◆遺族らは…
研究室で絞殺された同校5年、中谷歩(あゆみ)さん(20)の父純一さん(48)と母加代子さん(45)は7日午後4時、山口県防府市の自宅前で報道陣の取材に応じ、真相が分からなくなる結末に悔しさで唇をかんだ。
純一さんは「(男子学生が)捕まって本当のことを話してもらうことが、娘の供養につながると思っていた。残念で仕方がない。裁判を傍聴することなどを、これからの心の張りにしようと夫婦で話していたのに最悪の結果になった」と悔しさをにじませた。
加代子さんも「本当のことが分からなくなってつらい。娘が何で殺されなくてはいけなかったのか、誰か分かる人があれば教えてほしい。生きて捕まったという知らせばかりを待っていた」と無念そうに目を閉じた。
男子学生は19歳。事件後に行方をくらました。山口県警は少年法を理由に捜索のための情報を公開しなかった。その末に自殺しているのが見つかった。純一さんは「顔写真とか個人情報を公開するなど、やれることはすべてしてほしかった。皆が協力できたのなら、結果は同じでも少しはあきらめることもできた。法律で難しいのだろうが、残念という気持ちでいっぱい」と少年法の壁にいら立ちをみせた。
2人はこの日、これまで拒否していた写真撮影に応じた。その理由について「娘のために隠れていてはおかしいと思った。私たちの姿を男子学生の両親にも見てほしいという気持ちで顔を出すことにした」と説明した。
男子学生については、歩さんからよく聞かされていたが、家に来たことも面識もなかった。歩さんからはトラブルになったり、人間関係で悩んでいるという相談もなかったという。【北元和生】
◆学校では…
徳山高専の天野徹校長は同日夕、校内で会見し「生きていてほしいと願っていたので残念でならない。校内でこのような事件を起こし改めておわびします」と深々と頭を下げた。
遺体発見の連絡は午後0時55分ごろ、県警から電話で受けた。校内放送で知らせる一方、各担任が学生の自宅に連絡。会見直前には県警から、遺体が行方不明の男子学生だったと知らされた。
天野校長は「一日も早く正常な学校生活を取り戻したい」と語った。8日の1時限目に校内放送で改めて学生に事情を説明し、今後、安全対策をまとめて保護者に報告するという。【太田誠一、福島祥】
毎日新聞 2006年9月7日 20時46分 (最終更新時間 9月7日 22時11分)