韓流ざんまい:30代女性の海外逃亡週間=堀山明子
2006年 10月 16日
韓国で、今月5~7日の「秋夕(チュソク)」連休中、独身女性が大挙して海外旅行に行くという現象が起きた。秋夕とは本来、中秋の名月の日(今年は6日)に親族が集まって祖先を奉り、秋の収穫も一緒に祝う儒教儀式だ。例年は3連休だが、今年は8日の日曜が加わって4連休に。韓国の祝日になっている3日と、その前後をつなげれば最大で9連休になった。大手旅行代理店によると、欧州旅行など長距離ツアー予約者の約8割は、30代の働く女性だった。
「親せきから『まだ結婚しないのか』と小言を言われてストレスをためるぐらいなら英気を養ったほうがいい。海外旅行を予約したと言えば、親せきもあきらめる」。独身女性の生き方本「ジャングルの中のシングル」を書いた趙廷夏(チョジョンハ)さん(39)は、こう解説した。
本人は連休を前に「部屋の大掃除をして、本でも読みたい」と言っていたので休息に徹したようだが、独身仲間の中にはエステや整形手術の予定を入れた人も多かったという。ご先祖様が会いに来ても、急に美人になっていて見分けられなかったかもしれない。
秋夕のごちそうの準備は、姑(しゅうとめ)、嫁、娘の女性陣営が主に担うため、私の周辺でも「秋夕は疲れる」というぼやきをよく聞いた。親族会での待遇を男女平等にするよう訴訟を起こした人もいる。しかし最近の女性たちは、しぶしぶ適応するでも、参加して不満を言うでもなく、伝統儀式から静かに退場していく。摩擦が生じない分、この変化の勢いは速そうだ。
秋夕は独身男性もプレッシャーを受けるらしく、9月ごろから故郷に連れて行く彼女探しに焦り始める。そういえば、友人の30代女性は、秋夕の3日前に30代男性にプロポーズされたが、「親族対策用の意図が見え見えだったので断った」と怒っていた。「恋人のふりをしてほしい」と申し込まれた人もいる。
ここまできたら、伝統文化をめぐる男女の摩擦というより、家族観をめぐる親子の世代間ギャップの問題だ。この溝を埋めない限り、今度は秋夕に逃亡する独身男性も出そうだ。
改革の動きもある。知人の30代独身男性は、「男が台所に入るのか」と顔をしかめるお年寄りの忠告も聞かず、祭りの食事の準備を積極的に手伝った。「僕は長男だから逃げ出すこともできない。結婚した女性が負担にならないように、今から秋夕の雰囲気を変えておかなきゃ」と言う。これなら女性も戻って来る!?(ソウル支局)
毎日新聞 2006年10月16日 東京夕刊