奈良3人焼死:長男追い詰めた罪私に…父親がコメント
2006年 10月 26日
放火事件に対する奈良家裁の決定を受け、父親の医師が26日、弁護士を通じて報道各社にコメントを寄せた。
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この度、私の長男が、大きな事件を起こして社会秩序を乱し、世間をお騒がせしたことを、心からおわび申し上げます。
これまでコメントは差し控えてまいりましたが、本日、奈良家庭裁判所で、長男に対する審判が下されたことを一つの区切りとして、現在の私の心境を話させていただきます。
長男のしてしまった事は、取り返しのつかないことで、決して許されることではありませんが、その原因を作り、そこまで追い詰めたのは、紛れもなく父親の私であります。大人の都合で、長男を幼少時より複雑な家庭環境におき、さらに、長男の考えを聴こうともせず、とにかく、いい成績をとり、いい大学に入って、医者になることこそが長男の幸せにつながるという私の価値観を、無理やり、暴力に訴えてまで押し付け、知らず知らずのうちに、精神的な極限状態に追い込んでしまいました。そして、そのことで、何の罪もない妻や二男、長女は、命を失うことになり、長男も、今後長きにわたって罪を償うことになってしまい、結局、今までの人生で築き上げてきた何もかも失ってしまいました。
今から思うと、どうして、あの時、長男と良く話し合って長男の本当の気持ちを聴き出そうとしなかったのか、どうして、あの時、手を上げて、無理やり、自分の気持ちを押し付けてしまったのかと、後悔することばかりで、自分と関わりを持ったために、みな不幸になってしまったように思え、生きているのが辛くなります。
亡くなった3人の事を思うと、どうにも涙が止まらなくなりますし、長男のことを考えても、涙があふれてきます。長男のためと言いながら、結局は、親のエゴを押し付けてきただけであったと思います。ですから、亡くなった3人だけでなく、長男もまた私の被害者でした。
長男には、非常に多くの皆様より嘆願書や励ましの手紙をいただきました。本当にありがとうございます。それらは、その数だけ、私への怒り、おしかりのメッセージだと心に刻み、まず私自身が更生するために、専門家等の助力を得て、人の生き方や人との接し方など一から学び直す所存であります。
長男も、今回の事件に関し深く反省してくれており、最近では、鑑別所の中で、自発的に勉強を始めて、学ぶことの楽しさがやっと分かったなどと話したり、鑑別所の先生方を信頼し、先生に自分の気持ちを伝え、なんでも相談しているようです。私たち父子の間においても、少しずつ信頼関係を取り戻し、互いの気持ちを分かりあえるよう努力していくつもりです。鑑別所での面会を終えて帰る時、長男が私に握手を求めて、「また面会に来てほしい」と言ってくれていることや、審判の席で、長男が「罪を償った後は、一緒に生活してもいい」と言ってくれていることが、今はせめてもの救いです。
長男が罪を償うまでの間、父子関係の本来の在り方につき、一生懸命に学ぶとともに、罪を償う長男の更生に今後の人生をささげ、長男と2人で、死ぬまで、罪を背負って生きていくことが、亡くなった妻や二男、長女に対し、私ができる唯一の償いだと思っています。
皆様には、多大なるご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。
平成18年10月26日
毎日新聞 2006年10月26日 19時28分