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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

闘論:「孫」を代理出産 根津八紘氏/柘植あづみ氏

医療:MSN毎日インタラクティブ


 長野県の根津八紘医師が公表した、祖母が「代理母」となって孫を出産したケースが論議を呼んでいる。代理出産は最先端の医療技術なのか、生命倫理にふれる危うさを持った治療行為なのか。社会の価値観、個々の人生観なども絡む代理出産問題について、根津医師と生殖医療に詳しい研究者に聞いた。

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 ◇尊い自己犠牲を支援 社会へ問題提起した--産婦人科医・根津八紘氏

 「目の前で困っている人がいたら助けてあげる」というのが、人間社会の基本的なルールで、私が医師になった理由でもある。代理出産を選択する人は、当事者同士でみな真剣に話し合い、決めて病院にやってくる。私が勧めることはない。今回も、母親が「子宮がなくなった娘の代わりに産んであげる」という尊い願いを持ち、その実現を私が手助けしたということだ。

 私は「アウトロー」と言われてきたが、法律は守っている。代理出産を禁じる日本産科婦人科学会の会告(学会規則)は単なる取り決めで、法律ではない。それも産婦人科医だけで決めたもので、患者のニーズなどをとらえ切れていない。

 今回の代理出産では祖母が孫を産んだ形になった。「倫理的に問題がある」という指摘もあるが、社会の中の取り決めとか倫理観というものは、時代によっても変わる。人間社会において、一番大切なのは「相互扶助の精神」だと思う。

 私の病院に来た不妊患者の8割は、本格的な治療を受けずに帰ってもらっている。産むことが目的となってしまい、育てることを忘れているような人もいるからで、そういう人には説得し、あきらめてもらう。

 ただ、私のところに来る患者さんは、最後の望みを託してくる。「ここなら何とかしてくれるのではないか」と。そういう人に「手立てはあるが、学会では禁止されているから、ダメです」とは言えない。最先端の治療で救えるなら、「何とかしてあげたい」という気持ちで、最善を尽くすのが医師の役目だ。

 私は、問題を提起し、社会的合意を得て、世の中をよりよく変えていこうと思っている。1年以上前の代理出産を公表したのは、(代理出産で双子を得たタレントの)向井亜紀さんを応援したいと思ったからだ。今回の患者さんからも「後に続く人たちのために役立ててもらいたい」と、公表を承諾してもらった。支持が得られなければ医師を辞めようと思ったが、幸い、好意的な反応が多いと思う。

 代理出産は命がけの試みで、尊い自己犠牲に基づくものだ。悪用を罰する法律は作ってほしいが、代理出産そのものは認めてほしい。産める人が、産めない人に手を差し伸べることができる体制を作ってほしい。【構成・池乗有衣】

 ◇不妊女性、追い詰める 医療だけでは救えぬ--明治学院大教授・柘植あづみ氏

 まず、不妊の悩みの本質を知ってほしい。彼女たちは、産めないことだけを悩んでいるのではない。

 初対面の人に「お子さんは何人?」と聞かれることが怖くて、外出できなくなった女性がいる。「子ができない自分は価値のない人間」と傷つき、追い詰められている。不妊は医療技術だけで解決できる問題ではなく、社会全体の問題だ。

 だから、根津医師の「代理出産は不妊で苦しむ人を助ける解決策」という言葉に疑問がある。依頼した女性は「産めない女性」というらく印が押されたままだ。やっと子どもができても、「一人っ子ではかわいそう」という新たなプレッシャーを周囲から受ける。不妊女性向けに講演した時、子どもを5人持つ女性が「私も不妊女性の気持ちが分かる」と言った。日本では子どもは1人か2人が普通で、それ以上でも以下でも、好奇の目にさらされる。

 最近の代理出産をめぐる論議が、「お母さんや姉妹に産んでもらえばいい」などと、子どもがいるべきだとの風潮を強めるのではないかと心配している。代理出産を少子化と結びつけるのも疑問だ。不妊女性は「国のために産みたい」と考えているわけではない。

 日本では、子どもに障害があっても、事故にあっても、母親の責任にされがちだ。生体臓器移植も母から子への提供が期待される。娘が出産できない責任まで、母に負わせるのか。母への代理出産の依頼は「断れない状況」を生みやすい。

 商業的代理出産がされている米国では最近、問題が表面化していないようにみえる。だが実際は、出産する女性に保険をかけ、そのパートナーを含め徹底したカウンセリングをする。依頼者、出産者とも弁護士がつく。それだけ問題が生じやすいということを示している。また、代理出産を請け負う女性は貧しい人や移民が中心で、経済格差を利用した制度ともいえる。

 「子どもがいない人」の存在を認め、「子どもがいないと不幸」との価値観を押し付けない社会へと変えていくことが先だと思う。娘から不妊の相談を受けたお母さんたちは、「子どもがいなくても、あなたはかけがえのない存在よ」と娘に言ってほしい。代理出産をしなくても、その励ましこそ、子どもへの愛だから。【構成・永山悦子】

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 ■人物略歴

 ◇ねつ・やひろ

 信州大医卒。同大医学部助手を経て、76年に「諏訪マタニティークリニック」開業。64歳。

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 ■人物略歴

 ◇つげ・あづみ

 お茶の水女子大大学院博士課程修了。03年から現職。医療人類学専攻。46歳。

毎日新聞 2006年10月30日 東京朝刊
by miya-neta | 2006-10-30 07:00 | 社 会