出産時事故の「無過失補償」 創設へ向け来月から論議
2007年 01月 09日
出産時の医療事故で、赤ちゃんが脳性麻痺(まひ)になった場合、医師に過失がなくても補償する「無過失補償制度」について、厚生労働省などは補償の対象や金額、事故原因の究明のあり方など制度の詳細をまとめる運営委員会を2月上旬に立ち上げることが8日、分かった。同制度は医療紛争の早期解決を図って患者や家族の負担を減らし、訴訟が多く、敬遠されがちな産科医不足を解消するのが狙い。来年度中の運用開始を目指し、厚労省はようやく重い腰を上げたが、出産事故はお金で解決できるものではなく、課題は多い。(長島雅子)
訴訟回避
委員会の構成メンバーは日本医師会や病院団体、損害保険会社から選ばれる予定で、医療事故の分析をしている財団法人「日本医療機能評価機構」(東京都千代田区)に置かれる。厚労省は仕組みづくりなどのため、次期通常国会で1億1000万円を補正予算として計上する予定。
沖縄県では1万件の出産に6.5人の割合で脳性麻痺が生じている。同じ割合であれば全国で毎年約650人の脳性麻痺児が生まれることになる。先天性の場合と出産時に脳が一時的に酸欠になった場合があるとされ、原因の特定は困難で、訴訟に発展しやすい。
福島県立大野病院で帝王切開を受けた女性が死亡し、執刀医が業務上過失致死容疑などで昨年2~3月に逮捕、起訴された事故では「産科医不足に拍車をかける」などと医療現場から反発の声が相次いだ。
このため、自民党は「医療紛争処理のあり方検討会」を設置。昨年11月に通常の出産で赤ちゃんが脳性麻痺になった場合、2000万~3000万円を補償する枠組みを決めた。運営委は自民党案をたたき台に具体的な仕組みづくりを急ぐ。
警戒の声も
制度が定着するかどうかは、いかに公正に原因を究明して再発防止に役立て、患者側の納得のいく仕組みにできるかにかかっている。運営委には被害者をメンバーに加えるなど患者の視点も求められる。
医療過誤訴訟の患者側弁護士らでつくる「医療事故情報センター」の堀康司弁護士は「自民党がまとめた制度案は訴訟回避ばかりが重視され、患者側にお金を払っておしまいという制度になってしまうのではないか」と恐れる。
また、患者側には、医師に過失がなくても補償するとなると、過失があったのかどうかの真相解明がうやむやにされてしまわないかと警戒する声もある。
「患者側は医療の結果が悪かったから裁判を起こすのではない。事故前から事故後に至る医師の不誠実な対応や質の低い医療内容の連続から、放置しておけないと確信して訴訟に至る」。「医療情報の公開・開示を求める市民の会」世話人で長女を陣痛促進剤被害で亡くした勝村久司さんはこう訴える。
一方、国立成育医療センターの久保隆彦産科医長は「医療は不確実なもので、お産は100%安全なものではないことに対する一般的な理解が必要だ。そうでなければ、医療裁判を減らすことは難しい」と指摘する。
無過失補償制度の自民党案 通常の妊娠・出産で脳性麻痺となった場合が対象。医療機関などは新たに設ける運営組織を通じて民間の保険会社に保険料を支払う。運営組織は給付対象の審査や原因究明も担当する。
(2007/01/09 00:15)
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