【社説】タミフル異変 疑わしきに万全の対策求める
2007年 02月 28日
2007年2月28日
インフルエンザの特効薬として多用されるタミフルを服用した仙台市の中学生が、自宅マンションから転落死した。医・薬学的にタミフル服用と異常行動の因果関係は解明されないが、こと命に関する限り「疑わしき」は要注意である。
本県は1月末にインフルエンザ注意報が発令された。例年に比べると流行は控えめである。しかし患者の発生は後を絶たず、注意報は継続中だ。県内の医療機関でもタミフルが処方されるケースは日常的といわれるだけに、医師と患者、その家族の間でインフォームドコンセント(十分な説明と同意)を尽くしたい。
■64件の異常行動捕捉■
タミフルはインフルエンザA香港型とB型の特効薬として、スイスの製薬会社が開発した。主成分のリン酸オセルタミビルはインフルエンザウイルスの増殖を防ぐ効力が強く、罹り患かんして2日以内に服用すれば数日で容体も改善されるようだ。
世界中で重宝がられるが、副作用として幻覚など精神的、神経的症状が突発する恐れも指摘されてきた。メーカー側は注意を喚起しており、わが国の医薬品総合機構は2000年から4年間で64件の異常行動を捕捉しているという。
このうち六件が自殺を疑われる例だ。2000年に1件、05年は3件(うち1件は未遂)、そして今年に入り2月16日と今回の2件続いた。いずれも十代の若者が高所から飛び降り、トラックの前に飛び出すなど“犠牲”になっている。
総使用数に比べると、異常さの発現率は微々たるものだろう。しかし操られるかのように、死の深しん淵えんをのぞき込む行動は怖い。
■県内で6万人分備蓄■
今冬のインフルエンザは、県内でおとなしい方になる。12日から18日の週は患者数が904人だった(調査59拠点病院)。最悪だったのは5日からの週(11日まで)で1318人に上ったが、この数字も例年に比べると低い。高鍋保健所管内と宮崎市、宮崎郡域で目立つようだ。もっとも1月末に一拠点病院の患者数が10人を超えて以降、患者数は減る傾向を見せない。
仙台市のケースで明らかなように、県内でも治療薬にタミフルが処方される。確かに薬剤が異常行動を引き起こすとは断定できない段階であり、医師が告知する現場は少ないと聞く。過剰反応は避けたいものの一言、「タミフルを処方したので子どもの行動に目配りをするように」助言する律義さが医療側にあってもいいのではなかろうか。
わが国は鳥インフルエンザが人へ伝搬するのに備え、タミフルを大量に備蓄してきた。本県も9万6千人分を目標に、既に5万7千人分を確保している。行政努力は評価したいが、予防ワクチンが未開発な分野でその特効薬に不安が残るとすれば、万全の体制が整ったとは言い難かろう。
次元は違っても、わが国では薬害エイズ事件が記憶に新しい。国民は監督官庁を信ずるしかないわけで、政府はタミフルの安全性に関する調査研究を促進、併せて国民に対する十分な責任説明を果たすべきである。風邪は万病の元、ともいう。だからこそ人為的なマイナス要因は極力排除する工夫が不可欠になる。