人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

ゆとり教育:学力向上にプラスかマイナスか 揺れる評価

教育:MSN毎日インタラクティブ


 「ゆとり教育」は子どもたちの学力向上にプラスか、マイナスか--。文部科学省が13日に公表した「教育課程実施状況調査」(学力テスト)で、ゆとり教育世代の高校3年生の学力が、実施前の高校生よりもわずかに上回っていた。学力低下への懸念から政府の教育再生会議にも見直しが迫られているゆとり教育。03年度に行われた小中学校対象の調査でも学力向上の傾向を示したが、研究者の間でも調査結果に対する見解は割れている。ゆとり教育の評価と今後を探った。【高山純二、佐藤敬一、合田月美】

 ◇「低下」世代 2年で「成果」?

 「ハッピー、ハッピーとは言えない」。今回の調査結果は、02~03年度にかけて行われた前回の調査と比べ、プラスに転じているとはいえ、誤差の範囲内にも見え、文部科学省でも評価は定まっていない。結果を一瞥(いちべつ)した幹部は複雑な表情を浮かべた。

 今回の調査対象は05年度の高校3年生。かつて、学力低下を「裏付けた」と指摘された世代だ。03年度実施の高校の現行学習指導要領の1期生にもあたる。中学でも1年の時から、現行の小中指導要領に徐々に移行、3年時に完全実施された。これらの指導要領は、ゆとり教育路線の総仕上げとして学習内容が削減されたものだった。

 中2だった01年度、学力テストが行われ、同一問題の正答率は93~95年度調査より下回る結果に。03年には、この学年(当時高1)を対象に、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)が行われ、読解力がOECD平均レベルに落ち込んだことが判明。「学力低下ショック」が波紋を広げ、ゆとり教育の見直し論が一気に加速した。

 だが、そもそも「学力低下」は本当か。同省のテストでは相反する結果が続く。現行指導要領で学んだ小中学生を対象に行った03年度調査でも、01年度調査と同じ問題のうち43%で正答率が上回った。当時の中山成彬文科相が「学力の低下傾向に若干の歯止めがかかった」と評価する内容だった。この03年度調査は、学習意欲や時間も増加に転じている。

 今回の調査結果も「似た傾向」(国立教育政策研究所)を示しており、ゆとり教育の成果が出たとも言えそうだ。

 しかし関係者の評価は慎重だ。国立教育政策研究所教育課程研究センターの惣脇(そうわき)宏センター長は「現指導要領で新たに重視されている点が、どれだけ実現しているか一つ一つ(の問題で)見ていく必要がある」とゆとり教育の直接の評価を避ける。

 同じ87年度生まれの子どもたちが、高1まで「学力低下」の象徴、高3で「学力向上」とされる。それはなぜか。同省も明確な答えはない状態だ。

 ◇学習指導要綱改定 審議に影響必至

 今回の調査結果は、学習指導要領改定を審議する中央教育審議会に報告される。今までのところ、次期改定のキーワードは「ゆとり教育」から「活用型教育」になる見通しだが、どう反映するのか、今後、議論になるのは必至だ。

 ゆとり教育は、自ら学び・考える力である「生きる力」を中心理念とした。だが学力低下懸念や、高まった自由度が学校現場でうまく生かされていないという批判にさらされた。

 このため政府の教育再生会議は1月24日の第1次報告で、ゆとり教育の見直しを提言。具体策として、授業時間の10%増加▽基礎・基本の反復・徹底と応用力の育成▽薄過ぎる教科書の改善--などを盛り込んだ。しかし、単なる授業時間増では詰め込み教育の復活だとして、教育界や自民党文教族からも反発を招いた。

 中教審が同月30日にまとめた報告書では、授業時間の増加も検討課題に挙げる一方、「生きる力をはぐくむという現行指導要領の狙いは今後とも重要」と指摘。基礎・基本の知識を育成しながら、自ら学び考える力も育てることを両立させた「活用型教育」に言及した。ゆとりの理念を堅持したうえで、学力低下批判にも応える“折衷案”となっている。

 ◇学力向上現場が支え 狙い徐々に浸透

 現行の学習指導要領について、ある中央教育審議会委員は「まじめな先生が、真っ正直に受け止め過ぎた」と指摘する。つまり、詰め込み教育を見直すためのゆとり教育という社会的なスローガンが極端に受け止められ、基礎・基本も大切にすべきところを、「ゆとり」の部分だけが重視されたという考え方だ。

 学力低下への懸念が取りざたされた02年1月、こうした状況を踏まえ、遠山敦子文部科学相(当時)が「学びのすすめ」を発表。ゆとりを重視するあまり、「宿題も出さない」状況になった学校現場に対し改善を求めた。

 今回の調査で一緒に行われた教員へのアンケートでは、宿題を「全く、またはほとんど出していない」という科目が、12科目中9科目で減少していることが分かった。高校生の学力低下に歯止めがかかったように見える結果を考え合わせてみても、現行の指導要領の狙いが、現場で徐々に浸透しつつあるといえるのではないか。

 現在の教育改革論議をみると、教員免許更新制度を導入するため、今国会に教員免許法改正案が提出される。また政府の教育再生会議は授業時間の10%増を提言する。こうした考え方は、教員の負担を増やす方向性ばかりが目に付き、現場の力に不信感を持っているようにも思える。

 本来、教育改革は現場の力をいかに発揮させるかにあるはずだ。猫の目のごとく拙速な方針転換などは考えずに、もっと慎重な議論を重ねてほしい。せっかく芽生えた「学力向上傾向」に水を差してはならない。【高山純二】

 ▽加藤幸次・上智大名誉教授(学校教育学)の話 想定正答率を下回る設問が前回より減少しており、その意味では学力はまずまず向上したと言えるだろう。ゆとり教育が学力低下を招いたと盛んに言われているが、その批判は当たらない。

 ゆとり教育とは、詰め込み教育の反省から、学力の低い生徒にも分かるように教えることと、考える力、つまり生きる力をはぐくむのが目的だった。このうち、前者ばかりが取り上げられているが、批判の根拠に挙げられるPISAは、英語圏に有利な問題設定にもなっており、これで日本の子どもの学力をうんぬんするのは間違いだ。

 ただ、考える力や表現力がついていないのは問題だ。どこまで真剣に取り組んだか分からないが、記述問題での解答なしが増えている。ペーパーテストの結果で学力が上がった下がったと判断するのではなく、本当の意味での学力と言える思考力や判断力を育てなければならない。それにはどんな努力と工夫が必要なのか、関係者は再認識して具体策作りに取り組んでほしい。

 ▽苅谷剛彦・東大大学院教授(教育社会学)の話 今回対象となった高校3年生は、新学習指導要領の実施世代であると同時に、学力低下批判から学力重視を打ち出した「確かな学力」路線が始まった世代でもある。だから、ゆとり教育による大きな変化は生じていないのかもしれない。

 その前提で今回の結果を見ると、厳しい評価を受けた前回調査と比べ、あまり顕著な改善は見られない。

 例えば数学1の「関心・意欲・態度」を測る問題で、想定正答率を下回ったのが前回は11問中9問、今回は11問中10問とほとんど変わらない。新学習指導要領の一つの目玉だったにもかかわらず改善できていない。また、英語や数学などでは依然、得点分布が二極化している。同一問題で正答率が前回を上回った問題が多いのも、学力格差が大きいまま上位層が少し良くなったという可能性が強いのではないか。

 ゆとり教育で小中学校で積み残した部分が高校にきている。もし学習指導要領を改定するのなら、小中高と連続して体系付けていくべきだ。

 【ことば】教育課程実施状況調査 学習指導要領の定着度を調べるため、文部科学省が全国の小中高校を無作為抽出して行う学力テストのこと。学習指導要領の改定に生かす狙いもある。1956年度に始まったものの、自治体・学校間の競争が過熱し、日本教職員組合の反対もあり66年度に中止。81年度から小中学生に限定して再開、02年度から高校生も再開した。都道府県別の結果などは公表されず、参加生徒にも結果は返却されない。

 今月24日の全国学力・学習状況調査は弱点把握が目的で全員対象。

 【ことば】想定正答率 学習指導要領の内容を標準的な時間をかけて学習した場合に、予測される正答者の割合。学識経験者や教員らで作る問題作成委員会が事前に設定する。正式には設定通過率と呼ぶ。上下5%以内が「同程度」。仮に60%と設定した場合、55~65%が「同程度」で、超えれば「上回る」、達しなければ「下回る」と分類される。

毎日新聞 2007年4月14日 1時14分
by miya-neta | 2007-04-14 01:14 | 教 育