高齢者虐待:年1万2500件 半数が息子・娘--厚労省調査
2007年 09月 22日
家族や親族による65歳以上の高齢者への虐待が全国で昨年度1万2575件に上ることが21日、厚生労働省が行った高齢者を対象とした虐待調査(速報値)で分かった。昨年4月施行の高齢者虐待防止法に基づく初の調査。家族・親族による虐待では、8割以上は同居の家族からで、被害者の約6割は介護が必要な認知症の高齢者だった。在宅介護の難しさが家族を追いつめ、虐待に発展していく実態が浮かんだ。
家族から虐待を受けた高齢者は、女性が77%と多く、80歳以上が約5割を占める。67%が要介護認定を受けており、認知症の判定では62%が介護が必要な「日常生活自立度2」以上だった。
虐待をしていたのは、半数が息子(37%)と娘(14%)で、配偶者は19%。身体的虐待が64%と最も多く、排せつの失敗を責めるなどの心理的虐待が36%。お金を渡さないといった経済的虐待や介護放棄も2割以上あった。虐待に気付いて市町村の窓口に通報したのは、ヘルパーなどが4割以上を占め、本人からの相談は12%にとどまる。
発覚後の市町村の対応では、介護施設や病院への入所・入院などで家族と分離したケースは36%。4割近くは「助言・指導」や「見守り」しかしていなかった。
調査は施設内での虐待についても行われ、53件の虐待が確認された。【清水健二、柴田朗】
◇悪意なき虐待も--老年精神医学を研究している、松本一生・大阪人間科学大教授の話
気をつけなければならないのは、悪意はないのに精神的に追いつめられた介護者の虐待もあることだ。重要なのは犯人探しではなく、追いつめられた介護者を社会がどう支援するかということだ。
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■ことば
◇高齢者虐待防止法
05年11月に議員立法で成立。施設従事者に虐待を発見した場合の通報を義務付け、家庭内の虐待でも通報や早期発見の努力義務を課した。命に危険が及ぶ恐れがある場合、市町村長に立ち入り調査の権限を与えている。厚生労働省が毎年度、都道府県から件数と対応報告を受け公表することを決めている。
毎日新聞 2007年9月22日 東京朝刊