年金ヒント「同情するなら…」 社保庁作成、ピント外れ
2008年 02月 10日
2008年02月10日
5千万件に上る「宙に浮いた年金記録」の対応で批判を受けた社会保険庁が、記録漏れの年金受給者らに過去の勤め先などを思い出してもらおうと、当時の流行語や重大ニュースなど計627の言葉を例示した「ヒント集」を作成していたことがわかった。ところが、「同情するならカネをくれ」など、受給者の反感を招きかねないフレーズも含まれており、現場の社会保険事務所職員には「こんなヒントは言えない」との戸惑いもある。専門家は「国民の立場で考えていない」と指摘している。
社保庁は昨年12月、宙に浮いた年金記録の解消策として「ねんきん特別便」の発送を始めた。その一方、窓口に相談に来た年金受給者らに対し、記録漏れの特定につながる助言を行うことを禁じた「裏マニュアル」を作っていたことが表面化。福田首相らの指摘を受けて一転、助言を認める新マニュアル「相談窓口・電話対応Q&A」(A4判、85ページ)を作成し、今月1日から全国の各社保事務所で運用している。
社保庁は新マニュアルで、原則として年金の種別や加入期間、勤務先の社名などを受給者らに伝えるよう指示。それでも受給者らが思い出せなかったり、社保事務所が伝えた情報を否定したりしたケースも想定し、職員が当時の社会情勢を受給者らに教えるため、マニュアルの巻末に「世の中の動き」と題したヒント集を付け加えた。
朝日新聞が入手したヒント集には、サンフランシスコでの対日講和会議でグロムイコ・ソ連代表が記者に言い続けた「ノーコメント」(1951年)▽テレビドラマ「おしん」(83年)▽安部譲二氏の小説の題名の一部「懲りない面々」(87年)など、46~96年の流行語計162が並ぶ。
さらに、「ビートルズが来日」(66年)▽「東京・府中で3億円強奪事件」(68年)▽「インベーダーゲーム」(78年)を含む計337の重大ニュースやブームを記載。米(10キロ)や新聞代など当時の日用品の物価も128そろえた。
ただ、この中には米国映画の主題歌「ケセラセラ」(なるようになる、の意・56年)▽テレビドラマのセリフ「同情するならカネをくれ」(94年)▽婚約を解消するなどした女優がテレビCMで使った「すったもんだがありました」(同)といった、人によっては不愉快に感じる言葉も含まれている。
同庁年金相談推進室の担当者は「新マニュアルの作成には職員数人が約1週間、ほぼ徹夜で携わった。記録漏れ特定の切り札になる」と胸を張る。だが、各社保事務所には、度重なる転職や病気で記録が漏れた受給者らからの相談も少なくない。関西のある職員は「そのままヒントを伝えてしまうと、受給者に不快感を与え、トラブルになりかねない。社保庁はもっと現場のことを考えてほしい」と話す。