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「二条河原落書」のネタ帳


by miya-neta

【竹中平蔵ポリシー・ウオッチ】日銀、目標と要件なき人事

(3ページ) - MSN産経ニュース


2008.3.17 08:44

竹中平蔵慶大教授 ■政府与党に欠けるもの

 日銀総裁人事問題をめぐる政治の混乱は、目に余るものがある。日本は中央銀行のトップも決められないという現実に対し、市場は従来以上に厳しい目を向けている。

 いま、与党は野党を批判し、野党は与党を批判し、そしてメディアは政治全体を非難している。しかし私は、こうした一連の論議そのものが多分に的外れであり、結果的にそれが日本という国のガバナンスに対する不信感を助長しているように思う。

 まず、政府・与党の責任から考えよう。そもそも人事というのは、人事権者が自らの権限と責任において任命すればいい。特定の人物をなぜ任命したのか、なぜ任命しなかったのか、そんなことの説明は必要ない。それが人事というものだ。

 日銀総裁の場合、人事権者は「内閣」である。ただし今回は、国会の同意を得なければならないという点で、通常の場合とは異なる。そうである以上、(特定の人物評などではなく)人事の意思決定をした枠組みについて、少なくとも2点説明する必要があるのではないか。

 第1は、そもそも日銀の運営に当たって、政府としてどのような成果目標を求めるかだ。物価の安定、雇用の実現など、いったい現状の何を変える必要があると考えているのか。現状のままでいいのなら、現在の総裁、副総裁を再任すればいい。そうでないなら、新たに何を目指してもらいたいのか、明確にすべきだ。例えば、平成18年度までにデフレ克服をするはずだったのにこれが実現されなかったのだから、まずデフレ収束という成果目標を求めるべきではないか。

 一方で、原油価格の上昇によるインフレ圧力が世界で高まっている中、インフレにしないという目標も重要になろう。要するに、通貨の番人として「インフレにもデフレにもするな」というのが、最低限求められる成果目標である。


 その上で、成果目標実現のために、総裁はどのような要件を満たす人でなければならないかを明らかにすべきだ。マクロ経済に造詣が深く、金融の専門家で、かつ世界的なレベルでコミュニケーション能力がある…。最低限、このような要件が求められるのではないか。

 しかし、以上のような「成果目標」と「要件」を、政府・与党は何も示していない。これらがないままに、突然特定の候補者名があげられたのである。

 ■民主党の責任

 これに対する野党の責任はどうか。一部には、民主党は対案を示すべきだという意見が聞かれるが、これには賛成できない。人事権者ではない野党に対案を求めるのは、明らかに筋違いだ。ただし野党が政府案を否定するのなら、なぜ反対なのかの説明責任が生じる。つまり野党が日銀に求める成果目標と要件が何であるのか、明らかにしなければならない。しかし野党は、これを一切明らかにしていない。

 民主党の主張を聞いていると、真剣に首をかしげることがいくつかある。まず財政金融の分離が必要だから総裁候補の武藤敏郎氏に賛成できない、としている点だ。

 財政政策を経験したものが、金融政策を担当したらいけないのだろうか。その候補が成果目標を達成するための要件を満たしていない(例えば財政には詳しいが、金融には詳しくない)というのなら、不同意の理由になる。しかし、元財務省というだけで財金分離に反するわけではないはずだ。

 さらに民主党は、インフレ目標論者という理由で副総裁候補の伊藤隆敏氏を不同意としたが、これは大きな問題を残すだろう。世界の主要国の中で、インフレ目標を設けていない国は日本とアメリカだけである。そのアメリカは、バーナンキ連邦準備制度理事会議長の下で実質的なインフレ目標に向かいつつある。だからこそ福井俊彦総裁も、インフレ目標は将来の検討課題と一貫して述べてきた。もちろんインフレ目標に反対するのはひとつの立場だ。しかし今回の件で、民主党は世界の金融政策の潮流から孤立する立場をとることが世界に宣言されたのである。


 民主党のかねての主張で一つ適切な点があるとすれば、財務省の天下りに反対する、という点だろう。そもそも今回の人事は、財務官僚と日銀官僚が早くから結託し、自らのたすきがけ人事システムを守ろうとしたものである。それに政府・与党が乗っかって決定したことは、誰の目にも明らかだ。だからこそフィナンシャル・タイムズ(3月13日付)は今回の不同意を、むしろ日本社会の進歩と評したのである。

 そうした中で、メディアの論調はどのようなものだったろうか。その主たるものは、「日銀総裁ポストの空白を生むな」というものだった。いうまでもなく、空白を生まないことが望ましい。

 しかしあえて言えば、不適切な人材をすみやかに任命するのと、1、2週間の空白ができても素晴らしい人材を任命するのと、どちらが望ましいだろうか。明らかに後者だ。

 最も重要なのは、適切な人材を登用することだ。つまり成果目標と要件を明確にしたうえで、しっかりと論議を重ねることなのである。しかしメディアも、日銀のあるべき成果目標などについてほとんど議論してこなかった。与党も野党もメディアもきちんとした議論ができなかった点にこそ、日本売りの真の原因があると考えねばならない。

 ここまで混乱した以上、日銀に期待すべき成果(アウトカム)とそのために求められる幹部の要件(クライテリア)について、この際徹底的に議論すればいい。
by miya-neta | 2008-03-17 08:44 | 政 治