外部の目 防止に一番有効<1> 京都
2008年 02月 06日
職員不祥事
外部通報窓口の担当を務める吉田弁護士(中京区の法律事務所で) 受話器から聞こえてきた男性の声は落ち着いていた。
「区役所でずっと週刊誌を読んでいる職員がいました。隣の職員は仕事をしているのに」
京都市役所近くの法律事務所。自席で電話を受けた吉田誠司弁護士(42)は、次々に質問を浴びせ、不祥事の端緒をつむぎだしていった。「いつですか」「どの区役所ですか」
京都市が昨年10月に設けた不正情報の外部通報窓口。内部告発を含めた公益通報を、市役所を介さずに、直接、外部の弁護士が受け付ける。
当初、通報窓口は市役所内だけに置かれた。「通報した職員がばれて、不利益を被る」「身内に厳しい調査、処分が役所にできるのか」。疑心暗鬼の声に応え、外部通報窓口で受け付けた通報は通報者を伏せて監察室に伝えられる。市は内部調査を行い、吉田弁護士に返答する。
「この見解はおかしい。違法だと思います」。ある不正情報について、監察室が「違法な対応ではない」と結論付けた〈役所の常識〉に対し、吉田弁護士が再考を促したこともある。
「外部の弁護士だから不正情報を話したと言った職員もいる。外部の目が入る効果が一番大きい」と、吉田弁護士は話す。
今年度、監察室と吉田弁護士が直接受け付けた通報は計61件(1月17日現在)。前年度(26件)をすでに大きく上回る。長年、職場に潜んでいた不正の温床に、ようやく光が差し込んできた。
◎
「ごみの情報はなかなか入りにくい。市の直営区域ではわかっているのですが、委託区域はブラックボックスです」
ごみ収集を担当する市環境局の説明に、大学教授らが次々に疑問を投げかける。「非常に衝撃的だ。どんな問題が発生しているんですか」「委託業者に作業日報を提出させていますか」
中京区で昨年12月に開かれた市環境局の「ごみ収集業務改善検討委員会」。委員6人のうち5人が大学教授ら外部の識者だ。ごみ収集の50%外部委託化に向け、外部の目線で問題点をあぶり出していく。
多発した職員の不祥事は、環境局に集中していた。市は、同和地区の住民を対象にした「優先雇用」などを背景に挙げた。
「解体的」改革。市は2006年8月、不祥事の再発防止策として発表した「信頼回復と再生のための抜本改革大綱」で、環境局について、こう市民に約束した。「ごみ収集の50%外部委託化」も改革の一環で、競争原理の導入による業務能率の向上が狙いだ。
ここでも、改革のキーワードは「外部」だ。
「事務所のトイレを市民に開放したらどうか」「地域住民との接点の場を作ろう」
環境局は昨年8月、ごみ収集の拠点となるまち美化事務所11か所から有志33人を募り、プロジェクトチームを発足させた。ごみ収集業務研究グループ。信頼回復に向けて、職場で何ができるのか。自由に意見を出し合った。制服やパッカー車に広告を入れ、注目を浴びることで仕事への姿勢を変えるというユニークな案も持ち上がった。
「あいさつの励行など業務の基本がまだできていない」といった職場の体質を指摘する声もあった。グループは報告書をまとめ、「また、やりたい」という声が出ているという。市は、実現可能なアイデアから検討を始めた。
詐欺、児童買春、覚せい剤使用……。昨年度14人だった市職員の逮捕は、今年度は3人で落ち着いている。一方、昨年度52人だった懲戒処分は、忌引休暇の不正取得などで今年度も62人に上る。不祥事を生み出す組織風土からの脱却は、道半ばだ。
市幹部は言う。
「不祥事防止の仕組みは整えた。職員一人ひとりの意識改革はまだこれから。至難の技だと痛感している」
職員不祥事対策(マニフェストから)
◆門川大作候補▽信賞必罰の徹底と分限処分▽同和行政終結後の行政の在り方総点検委員会の設置
◆岡田登史彦候補▽人事の公正・公平さを厳守
◆村山祥栄候補▽「信頼回復と再生のための抜本改革大綱」の早期達成▽分限処分の徹底実施
◆中村和雄候補▽市長の直属の機関として「職員犯罪不祥事・同和行政徹底究明独立調査委員会」を設置
(2008年2月6日 読売新聞)