法教育/もっと加速させなくては
2008年 05月 26日
兄に続いて自分も殺されそうになった子ブタが、煮えたぎった鍋の湯の中でオオカミを死なせた。殺人罪は成立するか。
童話の世界を刑事裁判の仕組みの中に置き直してみる。「三びきのこぶた」の中での出来事は、明確な殺意に基づく計画的な犯行なのか、それとも、自分の命を守るための正当防衛として無罪にすべきなのか。
中学生たちがそんな議論を交わす試みが広がり始めている。小学校も含めて「法教育」という言葉がそちこちで聞かれるようになってきた。
動きを加速させ、拡大させたい。1年後にスタートする裁判員制度は本来なら、法教育の浸透を見定めてからの導入でなければならなかったはずだ。
自己責任を強調する風潮が強まっている。その一方に、新手の商法や雇用関係の変化に伴うトラブルの増加という現実がある。裁判員制度とのかかわり以外の観点からも今、法教育への認識を深める必要がある。
法務省が文部科学省との共同研究の形で法教育研究会を設立したのは2003年。05年に最高裁、日弁連の担当者や教育学者らが参加する法教育推進協議会を発足させた。「ルールづくり」「消費者保護」などをテーマにした中学生用の教材や教員向けの解説書・DVDが作られ、昨年、裁判員制度の教材も出来上がった。
09年度に移行期間に入る新しい学習指導要領では、小学校でも6年生が裁判員制度の基礎を学ぶ。絵本を活用する欧米の実践例などを参考に、低学年も含めた小学生用の教材開発を進めるのが今後の課題の一つだ。
消費者被害や働く場での若者たちの苦境を思えば、もっと高校生が視野に入っていい。消費者として、あるいは労働者として、やがて直面するかもしれないトラブルに立ち向かうすべを知る機会を増やしたい。
秋田弁護士会は長い間、高校で消費者問題の出前講座を実施してきた。秋田県教委の社会人講師派遣補助事業の1つだったが、財政難で本年度から打ち切りになった。残念な話だ。
東北弁護士会連合会は05年の定期大会で法教育の積極的な導入をうたう宣言を採択した。各地の裁判所、検察庁でも中高校生対象の裁判員制度の広報行事が目立つようになった。
「三びきのこぶた」を下敷きにした子ども向けの模擬法廷は、茨城県弁護士会のアイデアを学校現場が受け止めた。法曹三者間に加え、教育行政との連携強化が欠かせない。
学校だけでなく地域での社会教育の場でも、法教育の試みが広がるように取り組みを急がなくてはならない。裁判員制度への参加が少しおっくうな気持ちからすると、今とりわけ重要な国の責務にみえる。
2008年05月26日月曜日